ambivalence

両手いっぱいに抱えた射的で取ったおもちゃの箱とビニール袋に入った焼きそばとたこ焼き、右手にはりんご飴。

そんな充実した夏祭りに染まる光景に、つい顔が綻んでしまう。


だけど、やっぱりあたしの中には "あいつ" が居る。



” あたしには孤独が似合ってる。仲間なんていらない ”



「唯香、どうかした?」


モカの声でハッとした。

やっぱり、"孤独だった頃のあたし"が、この楽しい夏祭りを否定している。


「いや、なんでもない」


「そっか、なら良いんだけど」

「すごーく遠い目で悲しい顔してたから」


モカは能天気に見えて、相手の感情の変化に鋭い。

多分あたしは考えていることがすぐに顔に出るタイプだから、モカが勘付いたのかも知れない。

すると、さやかも心配そうにあたしを見ていた。


「唯香、もしかして……」

「屋台の食べ物じゃなくてモカの料理が食べかったとか…?」


「いやいや、それは天地がひっくり返ってもあり得ないから」


「唯香ひどい!」


「お祭り楽しいよ、すっごく楽しい…」


あたしは、右手に持っていたりんご飴をひとかじり。

前を歩く2人を照らしているオレンジ色の灯りが、やけに眩しく感じる。

かじったりんご飴の味は、甘いのに酸っぱかった。


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