sniper
パコンッ!と小気味を良い音を立てておもちゃの箱が倒れた。
「すごい、さやか上手!」
「ふふっ、『八女神市のフランシス・ペガァマガボウ』と呼ばれた私に、不可能なスナイプなどないのだよ」
さやかはよく分からないことを言いながら、自慢げに射的の銃を肩に担いでみせた。
あたし達3人は、まずはじめに、入口付近にあった射的にきた。
あたしとモカは既に3発使い切って、結果は惨敗。
そして、今は最後の砦のさやかの射的を見ていたところだ。
そのさやかはと言うと、水を得た魚を如く自信満々で銃を構えると、1発でモカの狙っていた景品を倒してみせた。
「さて、残りは2発、。次は唯香の欲しいものを取ってあげよう」
「えーと、じゃあ下から2番目の丸い缶のやつ」
あたしは、さやかが1発目で景品を落として調子に乗っているのが気に食わなかったので、景品の中で一番重いであろう重厚感あふれる缶に入ったミニラジコンを指差した。
「ほう、確かにあれは狙い甲斐のある獲物だね」
「然れども、この八女神のペガァマガボウに不可能は無いのだよ」
相変わらずさやかは自慢げに銃を担いだまま、わざとらしく頬に手を添えた。
さやかの中二病のボルテージは最高潮のようだ。
さやかは一呼吸置いてから銃を構えると、ラジコン缶に照準を合わせる。
果たして、その自信はラジコン缶に打ち砕かれるのか、それとも…
ゴンッ!と鈍い音を立ててラジコン缶が揺れる、弾かれたコルクは明後日の方向へ飛んでいった。
どうやら缶のちょうど中心に当たった様子、しかし獲物が落ちる気配はない。
ほら、これなら簡単には倒れない。
今のあたしは、多分不敵な笑みを浮かべていると思う…
「なるほど、そういう感じか」
「重心はだいぶ下にあるみたいだね」
しかし、さやかは狙撃前と同様の自信を持ち合わせたまま、ラジコン缶を冷静に分析していた。
その集中力は、普段のレッスンの時と変わらず、まるでさやかは何かのオーラを纏っているようだ。
「神気正常、騎虎潤沢、照準精確」
「我らアブソリュートの前にひれ伏すがいい!」
2発目、今度は謎の呪文と共にさやかが引き金を引き、目にも止まらぬ速さでコルクがラジコン缶に一直線で飛んでいく。
弦を弾いたみたいな愉快な音を立てると、ラジコン缶はゆっくりと後ろに倒れていく。
さやかの狙い通り、そのままラジコン缶は倒れて落ちていった。
2回目の挑戦にして、見事景品獲得。
「おおー」
こればかりは、あたしも声をあげてしまった。
「どうだい、2人とも!私は悪しき魔物を討ったんだ!」
「すごいすごい、ありがとね」
「でもあたしはラジコン興味ないから、これ帰ったら父さんにあげるわ」
「どうしようと構わないさ。このラジコンは唯香、正真正銘君のものだからね」
「おっけー」
あたしは景品を受け取りながら、目を爛々とさせて喜ぶさやかを適当にあしらう。
少しだけさやかの射的に感心してしまったが、これ以上さやかが図に乗ると厄介なのでこのくらいの対応をすると良いらしい。
ちなみに、これはモカの体験談。
こうやって個性の強い2人は、程よく受け流し合うことで長いこと良好な関係を築いているんだろう。
「あれ、そういえばモカは?」
「おーい、2人とも!」
「焼きそばとか、たこ焼きとか、いっぱい屋台出てるよ!」
「こっちのポテトも美味しそう!早くおいでよ〜」
その助言の張本人であるモカは、さやかの射的を見ることもせず、既に別の屋台の前で楽しそうにぶんぶんと手を振っていた。
「さやか、あたし達も行こうよ」
「あの…私の、狙撃……」
さっきのカッコつけていた姿から打って変わって、さやかは子どものようにいじけていた。
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