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「そういえば、唯香の浴衣も可愛いね〜!」
「最近買ったの?」
「別にお世辞なんて言わなくていいんだけど」
「これお母さんのおさがりだし」
「ううん、すごく似合ってるよ」
「唯香、緑系の服も似合うんだね」
「あんまりじろじろ見るなー!」
今日は8月のとある日。
あたし東雲唯香は、アイドルユニット・アブソリュートのメンバーであるモカとさやかと3人で、八女神市ではそれなりに名の知れた夏祭りに来ている。
常に高みを目指すアブソリュートは、普段は定期ライブに向けたレッスンとトレーニングに明け暮れているが、ちょうど先月に開催されたアイドルフェスで好成績を収め、マネージャーである陵ヴェルさんからも了承を得て、今日に限ってはこの夏祭りに来た。
「すごーい!屋台もいっぱいだね!」
「でもさ、唯香にとってはここっていつもの練習場所でしょ?気が休まらなくない?」
モカがあたしの顔を覗き込むように聞いてきた。
モカの言うとおり、この公園はあたしが毎朝自主練習のために使っている場所。
無論、今朝もいつも通りここでトレーニングをしてきた。
足腰のトレーニングにはもってこいの100段以上の階段や、大人向けのサイズの鉄棒。
そして、この公園の目の前には1階がガラス張りになっている公民館があり、人が出入りをしていない早朝にはこれを鏡がわりにダンスのレッスンができる。
「大丈夫!こんなに人が多いんじゃトレーニングって気分にはならないし、それに、」
「今日はモカとさやかがいるし…」
「ひょっとして唯香、照れてる?」
「え〜、唯香かわいい〜!」
さやかはあたしの心を見透かしたみたいに問いかけてきて、それに加勢してモカがあたしを弄ってくる。
「そういうのいいから!さっさと行くよ!」
やっぱり幼馴染で息ぴったりのモカとさやかのコンビには敵わない。
アブソリュートでの活動が始まったばかりの頃は、2人だけが幼馴染で、あたしは年下の高校生で、それなりに疎外感を感じていた。
だけど、今はその輪の中にあたしが居る。
あたしが口走って、さやかがそれに勘付いて、モカがあたしを弄る。
最近ではなんだかお馴染みの光景。
そのやりとりが、時折張り詰めた空気で行うライブよりも心地よく感じてしまうことがある。
そんな風に解釈してしまう今のあたしは、この2人と出会ってから"孤独の強さ"を失ってしまったのかもしれない。
信頼する仲間と一緒にやってきた夏祭り。
それはとても楽しいことのはずなのに、どこかでそんな今の東雲唯香を "孤独だった頃のあたし" が否定している。
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