immature


ーーー1時間前


「あ、いたいた!ゆいかー!」


遠くの方からあたしを呼んでいる声がした。

まだ姿は見えないけど、この声はきっとモカに違いない。


「お待たせー!」


「遅くなってごめん」


浴衣姿の女性が2人、あたしの前で立ち止まった。

1人は、シアンブルーを基調にコバルト色の水玉の入った浴衣を見に纏い、金髪を三つ編みにアレンジしているカデランテ・モカ・フラペチーノ、通称モカ。


もう1人は、紺色を基調に赤青白の花が散りばめられた浴衣に、黒く長い髪を右の低めの位置に結ったサイドテールにしている西音寺さやか。


彼女たちは、あたしが所属するアイドルユニット・アブソリュートのメンバーだ。


「みてみて唯香!この三つ編み、さやかにやってもらったんだ」

「可愛いでしょ〜」


「ほんとだ、可愛い」

「…って、そんなことより、集合時間から20分も過ぎてるんだけど!」


「あははは、ごめーん…」


「一応、遅れた理由を聞かせてもらおうか」


大して怒ってはいなかったけど、なんとなく2人が遅れて来た理由が聞きたくて、あたしは腕組みをして2人の前で凄んでみせる。


「実は……」


すると、さやかが神妙な顔をして口を開いた。


「モカが太り過ぎたせいで浴衣が入らなくて、浴衣を魔改造してたんだよ」


「えっ?」


「もう、さやか!嘘つかないで!」

「わたしが帯の結び方が分からなくて、30回くらいやり直してただけでしょ!」


「どっちでもダメな気がするんだけど」


あたしは呆れて、組んでいた腕が自然と解けてしまった。

モカとさやかはあたしより4つ以上は年上のはずだが、この2人のやりとりを見ていると、寧ろあたしの方が幼心を思い出してしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る