らんらんらんらんらん ――暴走アンドロイドから逃げろ!――

!~よたみてい書

持っててよかった

 二十代前半の容姿に見える女性は、社長室と書かれた自動ドアの前に移動していった。


 すると、扉が横に滑らか移動していき、女性は室内に足を踏み入れていく。


 そして、目立つ豪華な机の奥に立っている、体側面を見せている女性型秘書アンドロイドを見つめる。


 アンドロイドはゴルフクラブを地面に叩きつけていた。


 女性はその場に硬直しながら凝視し、


(彼女、一体何をしているの!? ……えっ、ゴルフクラブと制服が赤く染まってるっ! つまり……!)


 女性は目を見開きながら大きく口を上げながら、


「いやあぁぁぁ!!!」


 アンドロイドは手を止めて、顔を女性に向ける。


 そして、机を迂回して女性に近づいていく。


 女性は後ずさりながら、


「イヤッ! 来ないで! 止まりなさい! ルルベル、緊急停止84639!」


 ルルベルと呼ばれたアンドロイドは無表情のまま女性に向かい続ける。


 女性はルルベルを困惑した様子で見つめ続け、


(どうして止まらないの!?)


 きびすを返し、自動ドアに近づく。


 しかし、自動ドアは扉を閉めていき、じょうがかかった音を鳴らしていった。


 女性は両手で体が衝突する衝撃を和らげながら止まり、扉の取っ手に手をひっかけて、横に移動させていく。


 だけど、扉は強靭な守りを貫いている。


 女性は緊迫した表情を浮かべながら、


(え、どうして!? 開かないっ!)


 そして、女性はすぐさま背後を振り返る。


 すると、ルルベルは既にゴルフクラブを振り上げていて、女性に振り下ろす。


――からくりよ、ちょっと静かにしてなさい――


 しかし、突然女性の近くに狐の尻尾を生やした着物をまとった女性が現れ、ルルベルを突き飛ばす。


 ルルベルは後方に吹き飛んでいき、机の正面に背中をぶつけて、床に転がり込んだ。


 着物女性は肩をすくめながら、


――はぁ、少し疲れたな。娘よ、少し自力で頑張りなさい。死ぬではないぞ――


 女性はルルベルを凝視しながら、


(え、えっ!? 一体なにが起こったの!? 勝手に吹っ飛んでいたけど。それより、早く脱出しなきゃ! そう、スタンガン! スタンガンで操作盤に干渉すればもしかして)


 女性はカバンの中から長方形型のスタンガンを取り出し、自動ドア付近に備わっていた装置に押し当てる。


 そしてスタンガンを起動し、操作盤に電流を流していく。


 すると、自動ドアが横に移動していき、通路奥の景色を映し出す。


 女性は小さな笑みを浮かべながら、


(よしっ! 早く逃げなきゃ!)


 すぐに通路に足を運んでいき、右折して突き進んでいく。


 部屋を何カ所か通り過ぎたころ、【化粧室】と書かれた扉を見つめて、


(ここに逃げ込もう!)


 右折しながら扉を静かに開けて中に入っていく。


 一方、ルルベルは社長室から通路に移動し、首を左右に振っていく。


 女性は一番奥の個室に入り、スタンガン@0をカバンに入れながら、


(うぅ、一体なんなの!? 何が起こってるの!? 社長に呼ばれたから何か重要な仕事の話があると思ったのに。というか、他の社員はどうなってるの!? あれ、そういえば、なんだか今日はすごく静かな気がするけど……)


 頭を抱えながら不安そうな表情を作り、体を震わせていく。


 そして、カバンの中から白い小さな長方形のお守り@0を取り出し、両手で強く握りしめる。


 さらに目をつむり、何かに祈るように沈黙を続け、


(神様、どうかお願いです。わたしをお守りください。わたしが無事に脱出できるようにお導きください)


――おぬしからは今までたくさん賽銭さいせんをいただいておるからな。無論助けるぞ。だからこれからも貢物みつぎものをよろしく頼むぞ――


(いけない、こんなところで一人で居たら危ない。助けを呼ばなきゃ)


 女性は首から下げているペンダント型端末に触れ、正面の宙に長方形の映像を映し出し、そして、映像をつついていく。


(……あれ、繋がらない!? ……えっ、全部ダメ!? そんな、どうして……。トイレの通信環境がわるい? いやいや、そんなことないでしょ。……うぅ、他人の力を借りるのはダメってこと? そんな……。仕方ない、自力でどうにかするしかないか……。ここにずっと籠ってたって何も解決しないし。むしろ、そのうち見つかって……あぁ! もうそんなこと考えたら……早く脱出しなきゃ)


 そっと個室の扉を開け、トイレの中を忍び足で移動していき、入り口を少し開けていく。


 外の様子を確認し、誰もいないことを確認したら静かに退出し、トイレから右折してしばらく歩いていく。


(見つかりませんように……。見つかりませんように……)


 すると、正面の曲がり角からルルベルが姿を現した。


 ルルベルは首を女性の方に曲げて、


『らん――らん――らん、らん……らん』


 鼻歌を響かせる。


 女性は一瞬体を硬直させ、目を見開きながら体をひるがえし、


(イヤッ! こっちに来なければよかった! 逃げなきゃ!)


 女性は全速力で通路を突っ走っていく。


 だけど、女性の数メートル先の通路の天井から防火シャッターが下ろされていき、通路の形が変わってしまった。


 女性は走る速度をゆるめながら、


(えぇ、なんで!? なんでシャッターが下りるの!? 火事は起きてないよ!? まさかっ!? それより、早く別の場所に逃げなきゃ!)


 女性は体を反転させ、近づいてくるルルベルから、二つ先の部屋の扉に視線を移し、


(あそこに逃げよう!)


 すぐに二つ先の部屋に向かって走っていった。


 自動ドアは容易に女性を歓迎し、女性は室内に素早く入室し終える。


 部屋の中にはたくさんの棚が備えられていて、棚の中には雑多な道具が置かれていた。


 女性は部屋の構造を見渡しながら、


(うぅ、一番奥の棚の陰に隠れよう! ……あ、これはわたしのに使えそう)


 棚に置いてあったバッテリーを二つ掴み取り、物陰でじっと息をひそめる。


 そして、自動ドアが開かれると共に足音が室内に響き渡っていく。


 ルルベルは手前の棚の裏を一個一個確認していった。

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