第8話

 前提条件をおさらいする。


 まず沿岸部。俺達が暮らす土地は島と呼ぶには大きく、大陸と呼ぶには小さい、約4万平方メートル程の大陸である。(日本の九州はおよそ3万6千平方メートル)


 丸みのあるシンプルな形状の大陸は四つに等分され、それぞれ国として機能している。東側に位置するのがここギシミア国だ。


 海岸線から内地まで約一キロメートルの廃墟という名の“攻防の歴史”が続いている。その廃墟地区を超えると、それ自体は単なる壁なのだが、茶わん蒸しの具のように壁の中や上部に数々の軍艦が固定された“巨大な防壁”がそびえ立っている。それらは主砲が改造されており、龍のそれと同等以上の出力でブレスエネルギーを放つことが可能だ。


 つまりそこが最前線であり、部隊も常に駐屯している。上空には特別な防衛部隊が待機しており、龍の突破は困難というのがもっぱらの噂だ。つまり龍は沿岸からこの防壁を突破しなければ内地へ侵攻することはできない。(龍は人間同様酸素が必要であり、酸素の薄い高高度での長時間活動は困難であることも要因の一つだろう)


 防壁は防衛の要である重要拠点。俺のような一兵卒にまでシフトの情報は流れてこない。情報漏洩は厳罰だし、そもそも俺には漏洩してもらうような友人知人がいない。もちろん、監視し続ければある程度の予想は出来るが、オフの日までそれに費やす気は毛頭ないのだ。それに、その可能性を挙げれば推定容疑者は一気に増える。


 俺がその旨についても説明すると、尋問官は別の切り口で攻めて来た。


「なるほど。ではジーク。君はこれで三度目のはずだ」


 そう、俺は三度目なのである。


「これまでに二度、君が所属する小隊が、君を残して全滅した。これはなぜかね?」


 分かるわけがない。俺が聞きたいくらいである。


「君以外の隊員が死亡したのち、君は別の部隊に助けられている。これは君がスパイである裏付けではないかな?」

「いや、それは説明になっていません」

「では説明したまえ。君がスパイではないという証明を」

「……それは悪魔の証明でしょう」

「なんだと!?」


 逆上した尋問官が、俺の腹を思い切り殴った。


「うっ! ぐうぅぅぅ……」


 俺は座らされた椅子から転がり落ちて、悶絶していた。それからしばらく、尋問官の“ガス抜き”が続いた。

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