第5話
「いきます」
魔龍は、これまた聞き手にストレスを一切与えないような声で、彼らに伝えた。
そこで隊員達は、自分たちが険しい自然に挑もうとしているのだと理解して、一斉に怖気づいてしまう。
それを予期していたイオは単身、白き魔龍に突貫した。
魔龍がブレスを放つ。そのブレスが空中の水晶体に当たり、割れる。割れ曲がった先にある水晶体へ次々と連鎖し、ブレス光線を網がイオを襲った。
イオはそれらを全て寸でのところで回避し、腰に据えた針のような金属の棒、それに付随する柄を握り、抜いた。
ブレス・サーベルと呼ばれるそれは、ブレスエネルギーを集中して滞留させることで、単体で龍の外殻を切断することが可能な兵器。だが欠点として燃費が悪く、内蔵している龍のエネルギー発生器官がすぐに音を上げる。その為、振る時以外は光刃を展開しないというのが主流だ。
「!?」
魔龍は両手に水晶体を集めた。それらは規則正しく腕に付着し、手刀を延長させた水晶の刀を成す。それをイオに向かって振り下ろす。
「ちっ!」
回避のために速度を犠牲にしたイオが、斬撃を放つ。しかしそれは空いた片方の腕刀に弾かれる。
「……」
「……」
イオと、魔龍との目が合う。イオは覚悟を決めていた。
彼は直上へと飛行し、ブレス・ライフルを魔龍へ投げつける。魔龍はブレスを吐いてライフルを破壊したが、爆発と共に魔龍の頭上に煙が生じた。視覚情報を遮断しての奇襲である。
魔龍は身構える。
そして煙から、ブレス・ウイングの輝く翼が飛び出してきた。
「そこっ!」
魔龍の、文字通り手刀がお見舞いされ、ブレス・ウイングを貫いた。そう、飛行装置だけを貫いた。
「どこに……」
飛行装置を失った人間が、空中を移動する方法は一つだけある。それは下方向への移動、落下である。
「!」
晴れかけた煙から、イオが飛び出してきた。一人時間差攻撃である。一瞬、煙の目隠しから攻撃してこないという思考を挟んだ、その“虚”を突かれた魔龍の頭部目がけて、サーベルが振り下ろされる。
「もらった!」
「……お見事です」
魔龍は、戦いが終わることを名残惜しむように、そう言った。
「!?」
イオの落下が停止した。何かに引っかかるようにして。
「な……そうか……」
彼の胸には水晶体が刺さっていた。それは無色透明で、完全な不可視の水晶体だった。体の力が抜けていき、イオはサーベルを手放した。
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