第4話
「うわぁ!!」
その空気を、“魔龍”が一瞬で破壊した。イオの小隊に急接近し、正対した魔龍に驚いた隊員の声で、いくつかの人員が初めてその接近に気付いた。だがその叫びのおかげで、魔龍の初撃、紫光のブレスを躱すことができた。
「コイツ……まさかっ!」
魔龍は通常の龍とは違い、翼が二対四翼。更に、特別な固有能力を持っているとされており、人語を理解し会話が可能であると言われている。一般隊員が出会って生還できる可能性は限りなく低い。
そして何より、この龍が放つブレスの色に見覚えのある隊員が居た。
「やつだ! 隊舎を空爆した龍はっ!」
誰かが叫んだ。イオの記憶でも、爆発の前に紫の輝きを見たと、確信があった。眼前の魔龍こそが、彼らに地獄を見せた張本人、もとい“張本龍”である。
「魔龍は何か能力がある! 迂闊に手を出すなっ!」
イオが叫び、小隊は距離を取る。魔龍は白い外殻を有していたが、その上にさらに、鎧のようにして水晶体を纏っていた。やや小柄な体躯であるにもかかわらず、ずんぐりむっくりな印象がある。
燃えながら生え続けるかのように煌めく翼膜は、どこか気品を感じさせた。
「水晶体を避けて攻撃する」
イオが淡々と、照準を魔龍の腹部に向けた。そして一斉にブレス・ライフルが放たれる。
「!?」
だが、魔龍はその攻撃が来ることを知っていたかのようにして、水晶体を纏った両腕をクロスさせて胸部へ放たれたブレス光線を受け止めた。
「っ! 回避っ!」
イオの号令は、少しだけ遅かった。
受け止めた水晶体からミラーボールのようにブレス光線が反射されて、隊員数名の胴体を切断した。
「やはりか……!」
更に魔龍は、水浴びをした後の犬のようにして身震いをし、外殻に付着していた水晶体が一斉に飛び散った。イオ達は飛び道具を警戒したが、それらの水晶体は衛星のようにして魔龍の周囲に浮遊していた。
鎧を脱ぎ去った白き魔龍は、宝石と見紛う紫の美しい瞳を持ち、白亜の外殻はまるで穢れを知らぬカンバスのようだった。顔つきは凛々しくもどこか女性らしさを感じさせて、龍に対して不適切な形容であっても、“美人”と表現するのが相応しいだろう。
「綺麗だ……」
誰かが、そうこぼした。感情が無意識に口から溢れてきたのである。
“なんて美しい龍なんだ”
その場にいる誰もがそう感じていた。
だがそれは危険なものだと、イオは理解していた。全員が感じる美しいとう感情は、写真や映像で見る山々のそれに近い。安全な場所から、安全な状態で見るからこそ美しいそれらに、直接挑むとなると話は違う。自然が持つ美しさと厳しさ、それをこの白き魔龍が体現していた。
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