第16話 梅雨のある日

「梅雨は嫌だねぇ」


「じめじめは嫌だよねえ」


 ある雨の日の放課後。生徒会室で希と裕美が駄弁っていた。


「……噛み合っているようで、噛み合ってないよな。この話し」


「そう? でも結局のところ、梅雨が早く終わって欲しい、ってことでしょ?」


「まぁ、そうだな。雨だと本が湿気を吸って、なんと言うか読みにくい」


「とか言うけど、冬は冬で手先が冷えて読みにくい、とか言ってなかった?」


「そうなんだよなぁ。冬場だと手足の感覚が、冷えすぎて殆ど無くなるんだよ。結果、読みにくい。読書に一番適した季節は、春と秋だわ」


「ふ~ん? ま、いいや。ところで希はなんで生徒会室に居るの?」


「話をぶったぎったな……。そんなに興味ないか」


 話を露骨に変えた裕美に訊ねると、裕美は頷くのであった。


「興味ないかな。私は読書家じゃないし、毎日を楽しむだけだから」


「そうですか……。なんで居るのかだっけ?取り敢えず、生徒会室の掃除して時間を潰してた」


「用も生徒会の仕事もないなら、大人しく帰ればいいのに。帰宅部なんだしさ」


 裕美は少し呆れ気味に言う。 裕美が言うように希は帰宅部。用がない生徒なので早く帰るに限る、が希が帰らないのは、ちょっとしたわけがあった。


「最近、何故か俺の部屋がたまり場みたくなっていて……」


「あぁ、栞ちゃんの事?」


 裕美の言葉に頷く。

 最近何故か、栞が希部屋に来てイラストを描く事が増えている。要するに、希が一人でいれる時間が減っていたのだ


「暁さんは、何がしたいんだ?」


「う~ん、キミへのアピールじゃない?」


「アピール?」


「うん。だって宣言したんでしょ? 希を惚れさせる、って」


「そう言えば、そうだったような」


「だからたぶん、希と一緒にいる時間を増やそうとしてるんじゃないかな? まずは自分を意識させる……って感じかな。急にそう言う行動が増えたのは、誰かをけん制してるじゃない? 」


「なるほどな」


 裕美の言葉に納得する。アピールの一環だとすれば、わざわざ希の部屋に来ていることの説明がつく。


「その考えはまったく無かったわ。何て言うか、そこそこよく一緒にいるからな」


「ならいつもと変わらないじゃない。もしかして栞ちゃんの事、少しは意識するようになった?」


「……どうだろう? 正直まだよくわからんかも」


「進展は無しか……。ま、観覧者だから、口出しはしないよ。もどかしくはあるけどね」


「今後も、話を聞くくらいはしてくれよ」


「それくらいなら、お安いご用さ」


 裕美は少し楽しそうに応える。

 裕美と話していて気になることができた希は席を立つ。


「あれ? 帰る気になった?」


「ん。先に帰るよ。戸締まりよろしくね」


「はいはい~」

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