第17話 雨が降らなければ

「ただいま」


 ツムギ荘に帰り自室に着くと制服から部屋着に着替える。着替え終わったタイミングで、部屋の扉がノックされる。


「どうぞ」


 返事をすると栞がスケッチブックを持って入ってきた。


「今日もですか」


「うん」


「まぁご自由に。宿題が終わるまでは、俺は手が離せませんからね」


「気にしないわ」


「そーですか」


 各々の作業に取り掛かる。その間、宣言通り会話もなく、黙々と作業し時間が過ぎていく。ようやく課題を終えて、部屋を見回すと栞はまだ何かを描いていた。

 そう言えば最近は何を描いているのか、気になり栞の隣へ行く。スケッチブックを横からそっと、邪魔にならないように覗き込む。


「これは……」


 描かれていたのは、いつものようなイラストではなく、人物画であった。


「希、近いわ」


「あ、すみません」


「宿題、終わったの?」


「えぇ、終わりましたよ」


 栞の側から離れようとすると、栞が希の裾を掴む。


「もう少し、隣にいてよ」


「さっき近いって、言いませんでした? 」


「私のお願い、聞けないの? 」


 栞が小動物を思わせる表情で、希を見つめてくる。


「……お嬢さまが望むなら」


 希は栞の隣へ腰を下ろす。栞は裾から手を離し、再び描き始める。

 希は隣で描く様子をしばらく見ていたが、無言の時間に耐えられなくなり質問をする。


「お嬢さま、この絵は?」


「人物画のデッサンよ」


「いや、それはわかるんですが……何故人物画を? と言うか後ろ姿ですけど、俺じゃないですか? この絵」


「ん、完成。……何故って、友人の人物画って言う課題が出たから」


「はぁ……なるほど。かなり時間をかけて、完成させたみたいですね」


「課題ならもう提出したわ」


「えっ?」


「これは……秘密よ」


「今さらな気がしますが……まぁいいです」


「女の子にはヒミツがつきものよ」


 そういうものかと納得しておく。こういう時は深入りしないに限る。知りすぎると言うことは問題なのだ。かと言って、無知である事も問題である、と希は知っている。


「どうしたの? 難しい顔をして」


「いや、何でもないですよ。気にしないでください」


「そう? あ、そうだ!ねぇ希、次の休みの日、一緒にお出かけしましょ?」


「次の休みの日ですか……」


 6月中は生徒会関連の仕事もないし、自身の用事も特には無かったはず。あるとすれば、本を読むくらい。それだけ考えると希は返事をする。


「問題ないですよ。雨が降らなければ」


「なら雨だった時は、お家デートね」


「なっ、デ、デート、ですか……」


「珍しく動揺したね。キミのツボってよく分からないなぁ」


 栞は立ち上がって、扉の前まで行くと振り返り一言。


「ま、楽しみにしてるよ、みーくん♪」


 言うと俺の部屋を出て行った。

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