第15話 マンガは教科書

 縁と203号室前で別れて、昼食を作るためキッチンへと行く。栞のご注文のサンドイッチを作り、再び二階へと行く。201号室の前に着くと、希は扉をノックした。


「どうぞ」


 中から返事を受けて希は、扉を開けて中に入る。


「サンドイッチ持ってきましたよ」


「ありがとう」


「あまり筆が乗ってないみたいですね」


「なんでそう思ったの?」


 栞は受け取ったサンドイッチを食べながら訊ねる。


「なんで、と言われると、ノックした時に返事があったからですかね。集中してる時は、返事がないですもん」


「あぁ……そうなのね。じゃあ確かに、今日は筆が乗ってないわね」


「今日は終わりにして、息抜きにされては?」


「ん~……そうするわ」


「ちなみに何のイラスト、描いてたんですか?」


「これ」


 栞からスケッチブックを手渡されるのでみる。そこには武器を持つ少女のイラストが描かれていた。


「今期アニメのキャラですね! それもかなり人気のやつ」


「私も好きよ。だから描いてるんだけど……」


「納得いくイラストが仕上がらない、って感じですか」


「うん。もっとうまく、描いてあげれる気がするんだよね。なんとなくだけど」


「まぁ、描き手にしかわからない感覚もあるでしょうしね」


 スケッチブックのイラストは色の付いてない状態の物だが、それでも素敵なイラストだと思う。これに色が付けばさらに素敵な物になりそうな気がするが……。何を言ったところで、栞自身が納得しないと意味がないと考えた希は、話題をこの後の事に変える。


「と、そうです。ゆかりさん、来ましたよ。夜は歓迎会ですね」


「今回も希が作るの?」


「そうですね。これから仕込みをするつもりです」


「期待してるわ」


「あはは……」


 栞の部屋を出てキッチンへ行くと人数分の夕食の仕込みを行う。豚のロースをポン酢とみたらし団子のたれで作った液の中に漬け込む。これで後は時間になったら焼くだけで完成する。


「期待されても、あんまりレパートリーはないんだよなぁ」


 希のレパートリーは、なんとなくの想定のもと作るか、料理系のマンガのレシピを参考に作るのどちらかだ。そんなわけで、そこまで料理が得意と言うわけでもない。ただある程度、それなりに、こなせると言うだけであった。


「料理マンガ読むか……」


 キッチンから自室に戻ると棚からマンガを取り座って読み出す。



「ただいま!」


 何時間か経った頃、帰省してた住人が帰って来はじめる。

 時計を見ると18時過ぎ。マンガを読むことをやめ、夕食の準備を始めることにする。スライサーでキャベツを千切りにして皿に盛り、続いて漬け置いた肉を順番に焼いていき盛り付けたら完成。……正直、歓迎会にしては手抜きであった。


「……気にしたら負けだな。うん」


 やがて時間は19時になり一人を除いて住人がリビングに勢揃いし、席に着く。

 全員に飲み物が行き渡ると今回も裕美が音頭を取った。


「縁ちゃん! ツムギ荘へようこそ♪」


 こうして新たな住人が増えて、ツムギ荘は全部屋埋まったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る