第12話 二日目の早朝
コンコンッ
早朝から自室の扉がノックされる。
時計を確かめると5時を過ぎたばかりの頃であった。
「せめて……あと一時間……」
コンコンッ
再度ノックされる。
「あぁもう、わかりましたよ!」
しぶしぶベッドから起き上がり、扉を開けに行く。
「朝っぱらから、いったい誰じゃね」
扉を開けるとそこには栞が立っていた。
「……こんな朝早くから、何のようですか、お嬢さま」
「希、お腹がすいたわ」
「あぁ……徹夜で作業していたんですか」
「うん」
「そうですか」
さてお腹がすいたとの事だが、どうするか……と考える希。ご飯が炊き上がるまで30分ぐらいある。眠たい頭を頑張って働かせた結果、インスタントラーメンか冷凍うどんが、手っ取り早いとの結論になった。
「インスタントラーメンか冷凍うどん、どちらがいいですか」
「おうどんがいいわ」
「わかりました。リビングで待ってて下さい」
「わかったわ」
栞は部屋の前から移動していく。
希は着替えて自室を出るとキッチンへ向かう。
リビングでは栞がスケッチブックを持って待っていた。
「ふぁ……さてと、湯がきますか」
冷凍うどんを湯がき、器に盛り付ける。完成した素うどんをリビングで待つ栞に提供する。
「お待たせしました、お嬢さま。こちら、素うどんになります」
「ありがとう、希。じゃあ、いただきます」
栞は素うどんを食べ始める。希は席に座り栞が食べているのを眺めていた。
だんだんと頭が冴えてくると、今日は日曜日で暁さんの部屋を掃除する日であった事を思い出す。
「お嬢さま、今日の予定ですが」
「うん。お部屋の掃除をする日だよね?」
「はい、通常はそうなんですが、今日は生徒会での用事があってですね、掃除は無しという事で、お願いします」
「そうなの?」
暁さんはうどんを啜り、租借し終えると小首を傾げた。その一連の動作が希には、なんか可愛らしいしぐさのように思えた。
「わかったわ」
「ご理解、ありがとうございます」
「ちなみに生徒会の用事って?」
「みなと祭りって知ってます?」
「知らないわ」
「えっーと、まぁそうですね。ダンス部が祭りに参加していて、その写真を撮りに行く感じです」
「そうなのね……。ごちそうさま」
栞はうどんを食べ終え手を合わせた。と同時になにやら思案している様子だった。やがて考えがまとまったのか、栞が喋り出す。
「希、一緒に祭りに回りましょ?」
「あの~、私は生徒会の仕事が、あるんですけど」
「でも、ずっとじゃないでしょ?」
「それは……」
確かにずっとではない。ダンス部が出てきた時のみだ。おおよそのスケジュールで出てくるとは言え、ぴったりと言うわけではないし、せっかく撮るなら良い場所を確保して撮影したいのが本音であった。
「私がええじゃん出場者たちの方を撮影するから、希は祭りの様子を撮影してきなよ」
「古賀さん」
裕美がリビングに現れる。時計を見ると6時になっており、他の人たちも起き始める頃合いであった。
「おはよう、二人とも」
「おはよう」
「おはよう……ってそうじゃなくて、いいのか?」
希は裕美に訊ねる。すると裕美は炊き上がったご飯をよそいながら頷いた。
「問題ないよ 。祭りの様子を、ちゃんと撮影さえしてくれればね」
「希……」
栞が祈るような目で見つめてくる。
なんだか断りづらい……と言うか逃げ道はとうに塞がれたと希は気付く。希は一度深呼吸をすると照れを隠しながら言った。
「わかりました。一緒に回りましょう」
「やった!」
嬉しそうにする栞。こうして、栞と一緒にみなと祭り2日目を回ることが決定した。
そこでのふと思った。これって実質、デートなのでは、と。
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