第11話 みなと祭り一日目

「賑わってるね♪」


「そりゃあ、祭りの最中だからな」


 みなと祭り1日目の土曜日。

 希は裕美と一緒に広い会場を、ゴミ拾いするために歩き回っていた。


「なぁ古賀さん」


「なぁに、希?」


「思ったこと言っていい?」


「いいけど、手は動かしてね」


「んじゃ……ゴミ拾いこれは祭りが終わったあとにした方が、効率がよくないか」


「かもねえ。あ、はい、袋広げて」


「ん」


 裕美が拾ったゴミを差し出してくる。希は持っていたゴミ袋を広げ、裕美の差し出したゴミを受けとる。


「まあでも、こまめに回収してる方が、後々は楽になるからね」


「それはみなと祭りの実行する、市の実行委員だけじゃないのか」


「ボランティアは、指示に従うのみだよ! それに、生徒会のボランティア参加は、学校の方針だからねえ」


「確か……地域に貢献するとかで、みなと祭りとサマーフェスティバルのボランティアは、必ず参加だったか?」


「そうだよ~。ま、それ以外にも生徒会は、やることいっぱいあるけどねえ」


「やってみなきゃ、わからないことだよなぁ。若干騙された感があるのは、ご愛嬌ってか?」


「別に騙されてはないでしょ? 単純に目に見えない、大変さがあるだけだよ」


 希と裕美はゴミ拾いをしつつ、話はボランティアの事から日々の生徒会の話に変わっていく。


「それに希は、表側の目立つことはやってないじゃない。裏方のサポート系しかやってないんだから、文句は言えないし、そもそも得意でしょ」


「そういう契約付けて、生徒会役員になったからな。って言うか、最初がズルいわ」


「最初って言うと……」


「学年主任の先生に昼休憩、突然名指しで呼び出しされて、薄暗いパソコン室で、一対一の近距離対面勧誘」


 希の発言に裕美は愉快そうに笑う。一方で希は渋い顔でため息をついた。


「たしか、真面目だが何か飛び抜けて評価出来ることもない。だから生徒会役員になって、実績を積まないか。って感じの事を言われたんだよね」


 裕美の言葉に頷く。


「対面でも、机を挟んでとかならまだよかった。そうじゃなくて、座った時の膝と膝の距離が拳一個分の距離で、イスに座ってだぞ!?むっちゃ近いわ!」


「その圧に負けて、断れずに考えさせてください、って言ったんでしょ」


「まぁ、俺なんかに声が掛かるとは思ってもみなかったしなぁ。それにさ、生徒会ってさ、頭のいい人みたいな、優秀な人がなるもんだと思ってたよ」


「ん~、まあ確かに、成績優秀者が集まりやすいかもね。それに生徒会役員、って言われた時の印象って、賢い人とかすごい人みたいな、抽象的な感じじゃない?」


「確かに……言われてみれば、そうかもな」


「つまりは、明確な決まりはないんだよ。踏み出す勇気があれば、誰でもなれるってこと。優秀な人が集まるのは、その踏み出す勇気持ってる人が、多いからじゃないかな。変わりたいと思う人たちが、足踏みしている間に、優秀な人たちが一歩踏み出す。変わりたいと思った人たちは、あの人出るなら私には無理だと思って、もう踏み出せない。だから結果的に優秀な人の集団に生徒会は見える。なら、どういう経緯であれ、希は一歩踏み出した勇気ある人じゃないかな」


「条件付きだけどな」


「それは大した問題じゃないよ。お互い補い合って、適材適所で活動する。それが私の作り目指す生徒会だもん」


「……どこまでも、お供しますよ。古賀会長」


「うん。よろしくね、希庶務!」


 気が付くと1日目のみなと祭りも折り返しの頃だった。ゴミ袋の中には半分くらい入っている。


「さあ、この調子で残りも頑張るわよ♪」

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