第30話
「…なぁ、アーヴィンとセイゴはどうする?」
「どうするって言われても…。この船降りたら行くところねえよ。アーヴィンもそうだろ?」
船の一室でアーヴィン、セイゴ、ガフは声を顰めて話しあっていた。ガフが思いもよらない話を持ってきたのだ。
セイゴの問いかけにアーヴィンは眉をしかめる。
「ガフ、俺達が船を追い出されるって話、本当なのか?」
「あぁ。こっそりユフィールの奴がガント副船長に話してた。いい加減あの3人をどうにかするぞってよ。それ、絶対俺達のことじゃん?」
なにかとユフィールは自分達を目の敵のようにしていた。船長と副船長のとりなしで今まで船に残してもらっていたが、ユフィールが快く思っていないことは明白だ。船でのユフィールの発言は強い。その気になれば船長と副船長を丸めこむこともできる男だ。
「あ~あ、アーヴィンが悪さばかりするからだろ。」
「なんだよ、俺一人のせいか?!」
「いつも突っ走るのはアーヴィンじゃねえかっ。」
一番年少だが、問題を起こす度中心にいるのはいつもアーヴィンだった。セイゴ、ガフも喜々としてアーヴィンに協力していたくせに、いざとなれば責任転嫁する呆れた性根を持っている。
「……ちょっと待て。ここで変な喧嘩したらユフィールの思うツボじゃんか…。またいつもみたく、キャプテンに直談判するか?」
「いや…。船長はもう了承してるって話だったぞ。」
「………じゃ、大人しく追い出されるしかないのかよ…。」
船に乗る前、アーヴィンは盗賊、ガフは海賊といった札付きで、セイゴは某国で砲兵として働いていたものの、むやみに市民を狙撃して国を追われた過去をもっている。
偶然出会った船がフェリス・ピークスの船と知り、人生を変えたくてクルーにしてもらったのだ。ここで降ろされたら路頭に迷うことになる。元の生活にまた戻ることになるのだ。
「…まぁ、俺はそれでもいいかなぁ。別の海賊船にでも乗せてもらうさ…。正直、この船は良い子ちゃん連中ばっかりで反りが合わないと思ってたところだ。」
「あっそう。ガフはいいな。アーヴィンも盗賊に戻るのか?」
「………。」
「おい、アーヴィンっ…。」
「…そうだな、それしかできねえもん。だけどその前に思いついたことがあるんだ…。協力しねえか?」
悪戯をする悪童のように瞳をキラつかせてアーヴィンは言った。
「協力?何させるつもりだよ。」
「どうせ船を降りなきゃいけないなら、成就させときたい事があってさ。ルーヴァのことなんだけど。」
「ルーヴァ??そういえばアーヴィンはやけに御執心だったよな。心残りないように夜這いでもするつもりか?」
セイゴは冗談めかして言ったが、アーヴィンは至極真剣な顔をして続けた。
「似たようなもんかな。協力してくれたら、お前らにも楽しませてやるよ。」
「その上から言うのが気に入らねえ。せっかくのお誘いだけど、どんなに美人でも男はパス。」
「俺も男はいらねえ。アーヴィン一人でやってくれ。」
ガフとセイゴは共にアーヴィンの誘いを断ったが、予想外の事実をアーヴィンは話した。
「馬鹿。お前ら気付いてなかったのか?あいつ、女だぜ。」
一瞬、言葉を失ったガフ、セイゴの二人は、にわかにはその事を信じられない。
「マジ?」
「嘘だろ?」
「ほんと。前に見えたことあるんだよね、一瞬だけど胸の谷間。でもまぁ自分で服剥いでみて確かめるのもいいんじゃね?」
年が近いのに男っぽくないルーヴァを、アーヴィンは疑っていた。注意深く船での行動を見ていた時、偶然に胸元が見えたことがあったのだ。
「…ふ~ん。なら悪い話じゃねえな。」
「で、夜這いったって、どうするんだよ?あいつ、カギくらいはかけてんじゃねえの??」
お前対策に、とガフは皮肉を込めた。
「俺だって今思いついたことなんだから考えてねえよ。…そんなわけで、作戦会議といこうぜ?」
船がシヴァの森に向けて猛進する中、また事件の火種がついてしまった。
これに気付く者がいないまま、夜は更けようとしていた。
入浴を済ませ、自室に戻ったルーヴァは部屋に違和感を覚えた。
「……?」
6畳ほどの広さしかない部屋は2段ベッドと箪笥が占めており、ベッドサイドのテーブルには置時計とペン立てくらいしかない。2段ベッドの上段はメルクリウスの寝床になっている。配置が変わっているわけではないのだが、何かが気になってしまった。
(何日か空けたからか…?)
コルガに滞在している間、ギガントにメルクリウスの世話を頼んでおいた。ルーヴァの不在中は基本的にメルクリウスはこの部屋からは出さないようにしている。そのためガントは部屋への出入りが自由にできていた。
それが違和感につながっているのだろう、とルーヴァは考え直す。
朝早くから行動していたせいか眠気が襲ってきたこともあり、深く考えずに部屋の灯りを消した。
真夜中になり、身体に奇妙な重みを感じてルーヴァは目を覚ました。暗がりで顔は見えなかったが、悪意に満ちたその行為に声を上げようとする。が、あっけなく手で塞がれてしまった。振り解こうともがくが怪力のその手には全く歯が立たない。
それならば、とルーヴァはサイドテーブルに手を伸ばして手探りで置時計を掴み、セレーヌの部屋の壁に向かって投げつけた。
「こいつっ…!」
それに焦ったのか、口だけでなく両手も掴まれ動きを封じられてしまう。
そこで、ルーヴァは相手が一人じゃないことに気付いた。
「暴れんじゃねえよっ…」
(!…っアーヴィン?!)
押し殺した声は確かにアーヴィンだ。
「おいセイゴ、手はお前が抑えてろよ。服裂かねえと。」
ということは始めに口を抑えた怪力はガフで相手は3人いるのか。と呑気に分析している場合ではない。
寝間着に鋏が入れられサラシまであっという間に剥がされる。
「へぇ…本当に女なんだ。」
「だから言ったろ?それよりさっさと終わらせようぜ。」
「っつうかさっきの音大丈夫か?セレーヌが気付いたんじゃ…。」
「夜中だし、平気だろ?」
勝手な事を口々に言いながら、ルーヴァの身体を撫でまわす。
肌に触れられ、ルーヴァは反射的に逃れようともがいた。セレーヌが助けに来てくれることを待っている場合ではない。犯される恐怖と戦いながら必死に手と足を動かす。
「ルーヴァ、大人しくしろよっ。そうすれば少しは優しくしてやるからさ。」
耳元で囁くアーヴィンの声に気味悪さを感じ、一層激しく抵抗する。
「いいじゃねえのか、アーヴィン。じき疲れて大人しくなるだろ。」
「そんなの待ちきれねえな。」
アーヴィンが衣服を脱ぎ始める。
と、その時、部屋をノックする音が聞こえた。
「…ルーヴァ?今大きな音がしたけど、何かあった??」
「!!っっ!」
声はセレーヌではなく、セレーヌと同室のエーディンだった。
アーヴィンを始め、3人がかりで手足を抑え、ルーヴァの口を封じ息を殺す。
ルーヴァはここぞとばかりに暴れようとするが、一層強く封じられた身体は少しも言うことを聞いてはくれなかった。
その後も何回かドアを叩く音がしたが、エーディンはルーヴァが寝てると思ったのだろう、足音が遠くなる。
「…はぁ~、ビビった…。驚かせやがって……。」
「でもま、これで心配事はなくなったんじゃねえ?」
ほっと息をつく3人とは裏腹に、ルーヴァは絶望を感じた。ここから逃れる唯一のチャンスだったのだ。
「じゃ、心おきなく再開するか……。」
言葉通り、再びアーヴィンの手がルーヴァの肌を滑る。
殴られたり、蹴られたりといった暴行なら、耐えられる自信はあった。
ルーヴァの心に過去の痛みが蘇り、目から涙が伝い落ちる。身体はガクガク震え、逃れられない恐怖に観念したかのようにきつく目を閉じた。
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