第28話
「海流には上手く乗れたようだ。そう時間かからずにボアーノに帰れるだろう。」
「ふ~ん。それってどのくらい?」
「まぁ、一週間てとこか。」
「あそ。じゃ、予定通りボアーノまで直行で宜しく。」
「あぁ。島に残した傭兵やら家臣やらは拾わなくていいんだな?」
「いいよ。コーガの残党と相討ちになってくれたら万々歳だね。」
「…始めからびた一文使う気はなかったってことか?」
「さぁね~。でも安心してよ。船長の雇い主は親父だろう?親父の方がお金の契約にはちゃんとしてるからさ。」
「なら、良かった。」
ペグノバーニは小型の船でウォルカと側近とともにボアーノの本船に合流した。島で集落を襲わせたのは傭兵のほか、ペグノバーニが統括する騎士団員もいた。傭兵はボアーノから連れて来たものもいれば、タゴルダに入ってから雇った者もいる。いずれにしても、このミッションに参加して成功した暁には給金のアップを約束していたペグノバーニだが、もとからその約束を果たすつもりはない。傭兵とは所詮口約束のみ。こんなことはよくあることだった。生き残っていたとしても、なんとでも言ってばっくれることは可能だ。騎士団には何か言い訳を考えなければいけないだろうが、父親が上手く取りなしてはくれるだろう。自分はあくまで美味しいところだけもらえればいい。
船長とペグノバーニの会話を、部屋の隅で手錠を掛けられたウォルカは気分悪く聞いていた。あくまで家臣を大事にすることはできないらしいジェフリー家は、確かにクラーニとは相容れない存在なのだと実感する。
海へ投身しないように、義足である杖は完全に折られてウォルカは一人で立ち上がることもできない状態だ。人に助けられることが多いウォルカにとって、支えてくれる人を使い捨ての物のように扱うことは許せない。
(外道だっ…)
唇を強く噛み、怒りを堪える。
こんな連中に兄を引き寄せるために利用されるかと思うと悔しさや情けなさで胸がいっぱいになった。いっそ死ぬことができれば、どれだけ楽か。何度も頭をめぐるのは死だった。だが、死を思うたびにアゼルの言葉が蘇る。
生きて待ってろ
(俺が死んだら、アゼルまで死んじゃいそうだな…)
必死で連れ戻そうとしてくれた、長年の護衛。矢を受けていたらしいが、大丈夫だろうか。訓練を受けているからそう簡単には死ぬことはないだろうがあの後どうしたか心配になる。
もし自分が死ぬようなことになったら、アゼルは自分自身を責めて、死を選んでしまいそうだった。
それから…
(ルトー…)
無事でいるか。
集落のみんなが全力で守ってくれるのは分かるが、ルトーは心の優しい子だ。傷ついた誰かの為に無茶をしたりしないだろうか。
集落のみんなも、全員無事であってほしい。
これからの自分の運命は闇の中。この闇に誰も巻き込みたくない。
ウォルカはただ、そう祈るだけだった。
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