【誕生日記念小説】誕生日。

キコリ

第1話


「お誕生日おめでとう!」


 その言葉を受け取り、無条件のうちに自分が漫画の主人公になったような特別感を持ってワクワクしていたのは、いつまでだっただろうか。思い出そうとしても、そればっかりはどうも明確にならなかった。


 6時前に目を覚ますと、LINEの通知が何件か来ていることに気づいた。独特な通知音は、まるで年齢というポイントを自覚させるかのように鳴っていた。まだ起きていない目を開けてメッセージを確認すると、普段から話す友人だけではなく、この日ばかりは、それ以外の人達からも連絡が来ていた。それはどこか新鮮で、1年に一度というタイミングだけ取ってみれば、年賀状と同じようなものだと、思った。




 誕生日が来た。


 また1つ、年を取ったようだ。




 あまり自覚はなかった。前日も僕は昼間から夕方まで授業を受講し、そのままアパートに帰宅すると、静かに課題を終わらせていた。明日が誕生日という考えは頭にあったが、それが僕の生活に影響することはあまりなかった。大学生としての行動としてはよいものかもしれないが、誰かから見れば、その過ごし方は無難で冷たくて、ひんやりとしているかもしれない。あまり浮かれずに、1人6畳のアパートにいると、自然と心は落ち着いてしまうものなのかもしれない。


 僕は、今確認できるメッセージに目を通し、順番に返信をしながら自分の新しい年齢を感じ始めていた。




 20。


 そう、僕は今日から"20"という年齢になったようだ。




 今までとは違う新しい響きに、僕は少しばかり驚き、新鮮さを感じ、また新しい場所に行けたような、そんな心が変わったような思いを抱えた。どんな言葉でもいい表せない、それは少し特別なものだ。ただ―——今、新しい年齢になった僕には―——それを表す特別な言葉が見つからない。




・・・




 僕には、自分と同年代か、それよりも上の親戚がいない。

 周りの大人にとって僕は「一番上の子」だった。常に僕のことを「一番上の子」と感じ、考え、捉え、今の今まで育ててくれている。そして僕も、「一番上の子」としての振る舞いや言動を、自然と身に着け、それを行うことで周囲の大人と近い存在でいようとしていた。

 それが悪いことではなかったと、僕は今でも思っている。それでも、どこかで自分の悩みを話せるような同年代の子がいてくれると嬉しいと思っていたし、どこかで甘えられない、だけどいい子でいたい、という感情が、僕を優しく、そして激しく包み、僕の持っていた感情のほとんどを奪った。


 僕は、そんな昔の僕自身を、今に至るまで何度も見つめた。そうすることで、まだ過去の僕が抱えていた感情を、少しでも浄化できると、そう思っていた。逆に言えば、そう思っていないと、本当の僕がどこからかいなくなってしまうのではないかと思っていた。


 その中で、僕は自分の誕生日が、とても大好きだった。


 誕生日は、どんな人でも最初にもらう"記念日"だと思う。カップルがいる人も、カップルがいない人も、結婚している人も、結婚していない人も、元々その日は特別な記念日だ。さらに、男子か女子か、働いている人かそうでない人かに関わらず、その記念日は誰でもある記念日となっている。ここだけ、人間は平等なのだと思う。

 実際、「一番上の子」だった僕も、この日ばかりは無邪気に親に甘えて、頼って、愛されているなと、心からそう思える日だった。沢山の人に祝ってもらい、成長を感じてもらい、クリスマス以外でプレゼントが無常にもらえる・・・・そんな夢のような、ワクワクした日だと思っていた。




・・・




「おめでとう!」

 なんとなく大学に行き、僕は沢山の人から声をかけて祝ってもらうことができた。自分でも驚く程、その声は僕の心に響いた。あまり普段話さない人でも、自分のことを祝ってくれるのだと、感情が動いた。それは、どこか特別な出来事だった。親や親戚に祝われることは今まであったが、こんなに友達に温かく祝ってもらえたのは、大学に入学してからだった。

 僕は「ありがとう!」と返事をしながら胸中では、それ以上の感謝をしていた。

 誰かから祝われると、自分の誕生日が、こんなにも色んな人から祝ってくれる程記念日なのかと、感じてしまうことがある。あまり図に乗ることは好きではないし、僕に「おめでとう!」と言ってくれる人のほとんどは、きっと挨拶と同じような感覚の言葉だと思う。

 ただ、僕にはその言葉すらも嬉しかった。それはどこか新鮮だ。そして、まだまだこれからも励んでいこう、と、どこかで僕自身を鼓舞することもできた。




・・・




 もしかしたら、誰しも自身の誕生日を素直に祝えるとは限らないかもしれない。例えば、その日に関しいことがあったとか、恋人と別れたとか、友人から誕プレをもらえなかったとか、親からのお小遣いがそのタイミングで終わってしまったとか。理由はそれぞれあるかもしれない。

 だけど、僕は今年、新しい年代となった自分が、どこか新しい人物のように感じた。そして、年齢が新しくなった時、僕の持っていた悲しい過去や悩んでいたことは、前の年代である10代にそっと置いてきたように思った。


「今年も、よい1年にしよう。」


―——なんとなく呟いたその言葉は、温かみを帯びながら僕の心の中に溶けていく。




                 終

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【誕生日記念小説】誕生日。 キコリ @liberty_kikori

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