②'~④'三作品の補足(2022年執筆)

 三作品まとめて補足するのは理由がある。これらは全て、同一のアイデアを文章化しようと苦心惨憺していた時期の3つの失敗例であって、最終的には2006年に『四次元目を、始めます』という作品となって結実する。一度ならず三度も頓挫した作品を書き上げるに至ったという稀有な例である。外界の時間と肉体の時間と精神の時間がバラバラになるという症状を有する人間が冒険する、というコンセプトは通底しているが、細かい部分で迷走していたことが見て取れる。

 今でも覚えているのだが、これらの作品の共通アイデアは、私自身が寝ているときに見た夢から着想を得ている。私は、時間ものと呼ばれるSFジャンルが大好きだ。序盤で違和感があったり謎だった部分が、時間移動をする中で、終盤になって伏線として回収されるくだりのカタルシスがたまらないからである。私はある日、そのカタルシスを夢で味わうという僥倖に見舞われ、目が覚めるや否や、当時枕もとに置いてあったメモにその内容を書きつけた。それをどうにか文章化するための試みを、長年続けていたということになる。


 「デジタルトラベル(仮題)」は、最終更新日が1999年と前世紀の日付となっており、最も初期に執筆が開始された代物である。なお、この文章は、現存する今迫直弥の作品の中で最古のものにあたる。これ以前に執筆されたものは、富士通のワードプロセッサーで作成されており、文書データを保存したフロッピーディスクとともに、既に廃棄されてしまい、この世から完全に失われている。

 時間軸を移動する主人公の名前がカイオー・デドリーペイン、時間軸を移動する現象そのものをデジタルトラベルと名付けている。また、その主人公を補佐する存在として、魔導士エリック・パルという謎の存在が登場するが、これは当時構想していた別作品(当然、未完成でお蔵入り)の登場人物のスピンオフ的な使い方である。その世界観の名残として、西暦が崩壊した後の時代設定であるため、『二〇〇年八月一日に生まれた子供が~』というように、例え話の中の年号が妙な値になって、読者に無用の違和感を与えてしまっている。


 「夢のような旅をする少年・旅をする夢を見る少女」は、最終更新日が「デジタルトラベル(仮題)」の2年後、2001年の代物である。主人公の名前は「デジタルトラベル(仮題)」と同じカイオー・デドリーペインであり、自己の存在(実年齢と精神年齢の差)に違和感を覚えながら、遊園地にいるシーンが描かれている。「デジタルトラベル(仮題)」においても、彼は遊園地にいたのであるが、これは私が見た夢の始まりが遊園地だったため、外すことのできない要素と考えていたことから、全作品に共通している。この作品は、時間軸を異常に移ろっているという主人公の設定をしっかり説明する前に途絶しており、正直、何が何やらわからない。また、ほとんど一文ごとに改行するという独特の書き方を採用しており、謎のタイトルも含め、何やら色々と迷走していたことがうかがえる。


 「僕と彼女の互恵的な冒険の記録」は、さらに4年後、最終更新日が2005年の代物であり、後に無事完成する「四次元目を、始めます」と同様、異常な時間移動をする主人公の一人称で、インタビュアーに語りかけるという形式をとっている。だいぶ様になってきた。異常な時間移動現象は、「不連続時間旅行症候群」と名付けられており、カイオーという名前は、何故か主人公ではなく、インタビュアーに使われている。また、作者自身が設定を再確認するためもあって、懇切丁寧にタイムスリップものについての説明が描写されているのが印象的であり、この手法は、「四次元目を、始めます」でも踏襲されている。タイトルにある「互恵的」という表現は、元々のコンセプトであった「主人公の異常な時間移動現象を終わらせる最後の冒険」が、「ヒロインの大きな助けを借りて成功する」という展開になるのだが、実は「ヒロインを助けることにもつながっていた」という大オチにつながることを示唆しているものである。「四次元目を、始めます」においても、「互恵的」という表現が終盤にこれ見よがしに出てくるのだが、作者だけは読むたびに毎回にやりとしてしまう。


 書き始めては挫折することを繰り返してきた作品が、どのような代物になったのかは、カクヨムに投稿している「四次元目を、始めます」を参照していただきたい。迷走の果てに、「カイオー・デドリーペイン」という異次元のセンスを持つ名前は使われなくなっている(主人公の「僕」の名前は最後まで出てこない)し、異常な時間移動現象に名前はついていない。書き上げられただけで奇跡であるが、何の因果か、そのまま何の新人賞に投稿することもなく15年以上封印され続けた。時を経て、カクヨムに公開していることが、我がことながら不思議でならない。四次元目が、まさかこんなに遅くから始まるとは。

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