ドラゴさんのふつかめー。
ぱちっと目が覚めた。ちょっと明るい。多分朝だ。
「んんん~……」
目を擦りながら起き上がって思いっきり伸びをする。
今何時だろ。えーと、スマホ……あれ?
「スマホないっ!?」
どこにもないっ! なんで!?
「おや、起きたのかい?」
「ぱっ!? あっ、おばあちゃんおはよう!」
寝る前に見たおばあちゃんが今もいる。
……ということは、もしやこれは。
「なるほど夢かっ!」
まだ夢見てるっぽいね自分! すごいなぁめっちゃ寝るなぁ!
だって床で寝てたのに体ぜんぜん痛くないもん! 夢だなこれは! 夢ですよ! うん!
「それよりも、腹が減ったろう? スープでよければ飲むかい?」
「えっ、いいのっ!?」
やったぁ!
「とは言っても、お前さんみたいな大きい人が満足出来るようなもんじゃないけども」
「どうして?」
食べ物あるだけマシだけどなぁ。
「なんせ、肉も何も入ってないからねぇ。ちょっと薬草が入ってるくらいかねぇ」
ふむふむなるほど、つまりボリュームが欲しいってことか!
「じゃあ肉取ってくる!」
「いいのかい?」
「おばあちゃんも良いもの食べなきゃダメだよ!」
「おやおや」
寝る前おんぶした時すごく軽かったもん!
友達のおばあちゃんが目の前で転んだ時おんぶしたことあるけどめっちゃ重かったのに、そんなに軽かったら死んじゃうよ!
なので自分はお肉を取りに行くのです!
「何取ってきたらいい!?」
「そうだねぇ、じゃあ、兎肉をお願いしていいかい?」
「わかった! 兎とってくる!」
ばばーんとおばあちゃんの家から飛び出して、そのへんの茂みを突っ切り、開けた所まで出た。
「う~さぎうさぎ~、お肉になあれ~、あっ、いた!」
視線の先にうさぎを発見。
なんかツノ生えてるけど夢だからあれが今回の夢の中のうさぎだろう。
よっこいしょと近寄ったら、うさぎが慌てて逃げようとし始めた。
「えっ、めっちゃ遅いけど大丈夫かなこのうさぎ」
どっか体の具合でも悪いうさぎなのかと思ったけど、めちゃくちゃ健康そうだったので大丈夫だろう。
「まあいいや、よいしょ」
ひょいと屈んでうさぎの首を掴むと、なんかペキって音がして、うさぎがぐったりしてしまった。
「あれっ? しんだ?」
ピクリとも動かない。
……オタマジャクシ並の耐久性のうさぎかぁ。
なんか、これはこれですごい夢だなぁ。
それでもうさぎはとれたから、なんか知らんがヨシ!
「おばあちゃんただいまー! うさぎとってきたよ!」
「おやおや、大物だねぇ」
ばばーんと戻ると、おばあちゃんは嬉しそうに笑った。
迷わずに戻れたからさすがは夢だと思う。
後ろ見たらおばあちゃんちが見えてただけだけど、そんな近いところにおばあちゃんちあったか覚えてないからまあいいや。
「さばくから待ってて!」
「はいはい」
うさぎの耳を持っておばあちゃんちのキッチンぽいところを借りる。
ナイフとか水が入った桶とかまな板っぽい板があるから多分ここがキッチンだと思う。知らんけど。
まずは血抜きだよね。
いやー、仕事でグロいの慣れててよかったー。普段扱ってる鶏とは勝手が違うけど、なんとなく大丈夫な気がするから大丈夫でしょ!
「おいっ! ばあちゃんをかいほうしろ! このさんぞくめ!」
「さんぞく? なに? どれ?」
急に茶色い髪の元気そうな小さい男の子が出て来て、なんか言い始めた。
いったいどっから入ったんだろう。今血抜きするとこだから邪魔しないで欲しいんだけど。
あとさんぞくってなんだろ。たしかパスタにもそんなんあった気がするけど、なんだっけ。
あ、山賊焼き? 山賊焼きのこと? 山賊焼き食べたいのかなこの子。
あれ確か鶏肉でやるんだよねー、でも鶏肉は持ってないんだよなぁ。
「おまえだよおまえ!」
「ぱ?」
自分が山賊焼き? ん? どゆこと?
「あらあら、どうしたのロンちゃん、こんな朝早くに」
「どうしたのって、ばあちゃんちに大男が入ってったの見たんだよ!」
「あらあら」
どうやらおばあちゃんのお孫さんらしい。なるほどー。
「大丈夫よロンちゃん、この人はねぇ、川を流れてたのよ」
「何が大丈夫かわかんねぇよばあちゃん!」
あ、このナイフ借りよーっと。桶も空のやつあるね。ほんじゃここにうさぎをよっこいしょ。
うん、よし、頸動脈ちゃんと切れたね。あとは逆さに引っ掛けてと。
「おまえいったいだれなんだよ!」
「ぺ?」
ごめん、聞いてなかった。
「……そういえば名前は聞いてなかったわねぇ」
「そういえば言ってなかった!」
自己紹介は大事なのにすっかり忘れてた!
「なんなんだよ!」
「でも、大丈夫かしら、記憶喪失なんでしょう?」
「名前は言えるよ! 自分は! えっと!」
そういえばこの夢、姿がイケオジなんだった!
じゃあもうめんどくさいからネトゲの名前にしとこう!
「ドラゴ・アイスっていいます!」
よし! 言えた!
「あらあら、やっぱりやんごとない所の人なのねぇ」
「やんごとごととと? なに?」
なんて?
「大丈夫だよ、気にしなくて」
「そっかぁ!」
「ぜんぜん大丈夫じゃねぇよばあちゃん!」
うわっ、びっくりしたぁ。
「あらまぁロンちゃん、どうしたのそんなに大声出して」
「そーだよロンちゃん、今血抜きしてるからお肉は待っててね」
「何のはなしだよ! つーかおまえがロンちゃんていうな!」
もうちょっとかかるからなぁ血抜き。あ、内臓どうしよう、食べるかなおばあちゃん。保存するものとかあるかなぁ。なかったら加熱するか捨てるかしなきゃなぁ。
「ばあちゃんはだませても、おれはだまされねぇぞ! いったいなにが目的だ!」
「目的……? えっと……おいしいスープ作って食べる!」
肉団子にしたらおいしいと思うんだ!
つみれでもいいけど、薬味とかないから肉団子です!
「そういうこと聞いてねぇんだよ!」
違うの?
「わかったぞ! おまえ、ばあちゃんの秘伝のレシピが目的なんだろ!」
「えっ、なにそれ、おいしいやつ?」
「とぼけんな! 街とかで高く売る気なんだろ!」
ん?
「なんで?」
「えっ」
「秘伝は、秘伝だから秘伝なんだよ?」
「は?」
「広まったら秘伝じゃないじゃん! だめだよ!」
「くっ、たしかに……!」
ふっふっふ、ごなっとくいただけたようですね!
「それより、血抜きがそろそろ終わったんじゃないかい?」
「おっ! ほんとだ! よーしさばくぞー!」
こんなに早く血抜き出来るとかさすが夢だなー。
さくさくと内臓取ってなんか色々やる。こうすることで肉が柔らかくなるのだ! 知らんけど!
「いや、おっさんなんでそんな手際いいんだよ……」
「似たようなことよくやってた!」
「なるほどねぇ、日常の事は手が覚えてるんだねぇ」
鶏さばいて切り分けて計ってビニールに入れて出荷する工場に勤めてます!
「ばあちゃん目を覚ませよ! やんごとないやつがうさぎサバけるかよ!」
「ほら、あるじゃないの、お忍びで冒険者してたとか」
「いやあるかもしれんけどコイツがそうとは限らねぇじゃん!」
あっ、そうだ!
「ところでロンちゃん、うさぎって何味がオススメ?」
「は? 何言ってんだ? うさぎは香草とかで食うだろふつう」
「えっ、味噌とか醤油ないの?」
「なにそれ」
「ええー、ないのかー。じゃあ塩コショウは?」
「そんな高ぇのこの辺で売ってるわけねぇだろ」
「高いのかー」
ありゃまー、そういう感じの世界観の夢かー。
「やっぱりやんごとない所の人なのねぇ」
「くっ……みぶんさしょーじゃないのか……!」
「やんぶんさごと? なにいってんのロンちゃん」
「いやおまえがなにいってんの……?」
なんで?
「それより、このスープに団子にしたうさぎ入れるけど、このへんの草とか入れた方がいい?」
「いや、うさぎはタンパクだから、あんまり強い香草入れたらうさぎの味が消し飛ぶぞ」
「じゃあそのまま入れよーっと」
団子~、団子団子~、こんな感じかな?
よーし投入ー!
「おい、生のまま入れたらばらばらに……」
「ならないよ?」
「ホントだ……」
「よく練ったらならないんだよ、よかったねロンちゃん、ひとつ賢くなったね!」
「うるせぇ」
おめでとうロンちゃん!
というわけで、灰汁取ったり煮立たせたりした結果、うさぎの薬草スープが完成したので、近くにあった適当な器に入れてみんなに配った。
「おいしいねぇ」
「ねー! おいしいねぇ! さっすが自分!」
いい感じの味ー!
「ホントにうめぇ……なんだこれ……」
「これはねぇ、元のスープがおいしかったから、いい出汁が混ざって更に美味しくなったんだよ!」
「それだけじゃねぇだろこれ……どうなってんだよ……」
食べ物の味が分かるタイプの夢かぁー!
初めて見たなぁー! すごいなぁー!
「おいしいねぇ」
「ねー! あ、おばあちゃんおかわりいるー?」
「もらおうかねぇ」
「はーい」
自分もあとでおかわりしよーっと!
「はいおばあちゃんおかわり」
「ありがとうねぇ」
「いや聞けよ!」
おいしーい!
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