第3話 第一戦「黒ひげ危機一髪!」

 翌日の放課後。8人は隅田と机を中心に囲み、机の上に置いてあるプラスチックでできた穴の開いた樽に注目していた。


 「皆さん、お揃いですね。ルールはいたって単純です。1本ずつ交代でナイフを樽に刺してい行き、黒ひげを飛ばしてしまった方が負けです。では、両会長、先攻後攻を決めるジャンケンをしますので、前へ」


 隅田に指示された渡辺と伊藤は、前へ進み出ると、隅田を挟んで拳を突き出した。


 「最初はグー!ジャンケン、ポン!」


 9人全員が自然と声を揃え、それに合わせて会長二人は手で形を作り出した。


 「ぽん!」

 eスポーツ同好会、渡辺はグー。


 「ほんっ!」

 スケボー同好会、伊藤はパー。


 「ジャンケンは、スケボー同好会が勝ちました。先攻後攻、どちらにしますか?」


 勝った伊藤は「よっしゃー!」と声を上げながら仲間に掌を見せていたが、隅田の問いかけに間を空けず「先攻!」と答えた。


 「では、スケボー同好会からどうぞ」


 伊藤は大きく頷くと、プラスチックでできた緑のナイフを掴み、黒ひげが入っている樽に先だけをそっと刺し込んだ。そして、意を決してから奥まで差し込む。

 「まさか一本目で黒ひげが飛び出して来るわけが無い」と言う思いと、「もしかしたら一本目から飛び出してくるかもしれない」という期待と緊張が入り混じる視線が、教室の空気を張りつめさせたが、何も起こらないと分かると、一気に緩んだ。


 「次、eスポーツ同好会」


 隅田の声で小さなざわめきが起こるが、eスポーツ同好会の一の。嫌、学年一の天才、阿部が眼鏡を直しながら前へ進み出るとまた静寂が訪れた。


 「行きます」


 阿部は伊藤のように、もったいぶることはせず、赤いナイフを持ち、間を置かずに一気に奥まで差し込んだ。

 こちらも、黒ひげが飛び出る事は無かった。普段は隅田の次にクールな阿部だが、喜びを隠しきれず得意気に眉を上げながら、元の場所に戻った。


 「スケボー同好会、どうぞ」


 隅田は眉一つ動かさず、淡々と進行していく。

 元バスケ部で長身の佐々木は、黄色のナイフを手に取った。佐々木の大きな手は、皆が同じナイフを使っているのに、先の二人が使った物よりも小さく見せる。佐々木はその小さなナイフの先だけを、樽に刺し込むと伊藤よりも間を取り、奥歯を噛みしめながら両眼をギュッと瞑り、祈るように奥まで刺し込んだ。

 刺し込んでからもしばらく手を離さず、そのままでいたが、何も起こらないと分かると誰よりも喜んで、「やった、やったぁー!」と仲間の下に帰って行った。


 「eスポーツ同好会、どうぞ」


 eスポーツ同好会には学年一のイケメンもいて、日焼けをした顔に白い歯をのぞかせている爽やかイケメンの前田が、キラキラの笑顔を見せながら前へ進み出た。


 「俺は青にしよっと」


 前田は青いナイフを持つと、注目を確かめるように、自分を取り囲むみんなをぐるりと見渡した。


 「じゃぁ、行っきまーす」


 舞台の演出のように、青いナイフを高らかに掲げ一気に奥まで刺し込んだが、何も起こらず、肩をすくめながら元の位置に戻る。


 「スケボー同好会、どうぞ」


 スケボー同好会にもイケメンは所属している。整った容姿で男女問わず優しく接する姿にファンも多く、実は前田よりもモテてるんじゃないかと噂されている長沢。

 長沢は少し垂れている目を細めて微笑みながら前へ出ると、赤いナイフを手に取って、「セーフになりますように」と小さく呟いてから奥まで刺し込んだ。

 長沢の願い通り、黒ひげは飛び出さなかった。長沢は両手で小さくガッツポーズを作り、仲間の下に戻る。


 「eスポーツ同好会、どうぞ」


 前に出てきたのは、地味と言うか覇気が無いと言うか、自分の存在をわざと消しているように見える杉本。注目されるのが居心地悪いようで、早々に青いナイフを持って刺し込んだ。


 ガチャン!!


 杉本が刺し込んですぐに、黒ひげは思っていたよりも低く飛び出し、教室の床に転げ落ちた。


 「eスポーツ同好会、杉本君により黒ひげが飛び出しましたので、この勝負、スケボー同好会の勝ち!」


 隅田は、樽から飛び出た黒ひげを拾い上げ、高らかに掲げながら、スケボー同好会の勝利を告げた。


 「よっしゃぁ~!!」

 「やった!!」

 口々に喜びの声を漏らすスケボー同好会とは対照的に。


 「くそっ」

 「致し方ない」

 茫然としている杉本の肩を抱きながら、悔しさと慰めを口のするeスポーツ同好会。

 隅田は対照的な二組を見ながら、一瞬だけ目を細めた。


 「続きまして、二戦目を行いますので移動します」


 混沌とした空気を引き裂く感情の乗らない隅田の声に一同は静まり、大人しく指示に従った。

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