11. 住処。翼族たちの塔。
「なにしてるの? 早く入ってちょうだい」
美事な構えの門をくぐったセツナがこちらにふり向く。
呆気にとられている久遠を怪訝そうに見つめた。
他にも
多種多様な文化が入り混じる街並みは、和の文化に囲まれて育った久遠の目には異質に映ったものだ。だが今目の前にある建物は、それらをはるかに凌駕した。
セツナの住む家らしい。
らしいというのは、その規模に因った。
「確認だが……これがあんたの家か?」
思わずそう訊ねてしまうほどに巨大だった。
家というよりは塔と表現した方がしっくりくる。
入り口となる門をくぐると、手入れの行き届いた庭園が広がり、その中央に白を基調とした塔がそびえていた。
壁は硝子張りの占める割合が大きい。造形は均一な円筒でなく、ところどころ、それ一つが民家と呼べるような部屋が幹となる部分から飛び出していた。
さらに周りの中空には、いくつもの小島が浮いており、そこにもまた別の建物がある。浮島には塔から道が延びているものもあれば、単独でただ浮いているだけのものもあった。
呆然と見上げたまま圧倒されている久遠を見て、セツナは合点がいったようだった。
「あんなに立派なお屋敷に住んでる久遠くんでも驚くのね。ここはね、もとは
何でもここは、ヒト族界に傭兵としてやってきた
そう説明してくれたセツナが、自嘲するように困り顔をした。
何か事情がありそうな様子だが、セツナが口にした事件とやらに関して、久遠はあえて追求しなかった。
「まあ、あんなことがある前からみんな、実は故郷の
悲痛を堪えるような言い方だった。
共に暮らした同族を私たちとくくっておきながら、どこか自分だけを異分子のように語っている。
共に在るべき者たちの隣で、己をそこへ同化できないのは、辛い。それは久遠にもわかる。
「……潔癖かどうかは知らんが、あんたが頑固なのは間違いないな」
「ふふ、そうね。おかげで久遠くんをここまで引っ張ってこれたわ」
意図して茶化してやると、敏感に察してくれたであろうセツナに少し元気が戻った。空元気もいいところだが、ないよりはましに違いない。
「今は何人住んでいるんだ?」
「久遠くんと私を含めて三人ね」
「……待て。なぜ俺を数に入れる?」
「え? だって久遠くん、ここに住むのよ?」
「何を言っている。俺には借家が用意してあると姉さんが……」
言いながら、してやられたと久遠は苦い顔になった。
それを見たセツナが思わずといった様子で吹き出す。
「……あんたのしわざか?」
「いいえ、ここに住むよう千瀬さんに提案したのは私だけどね。千瀬さん、久遠くんには自分で伝えると言っていたのよ?」
まんまと騙された久遠がそんなにも面白いのか、セツナは込み上げる笑いを我慢できないでいる。
「別の宿を探す」
「あ! 待って待って、ごめんってば」
踵を返した久遠の手をセツナが慌てて取った。
じろりと睨んでやるが、セツナは動じず微笑んでみせるだけだ。
「あなたの住居は申請してあるから変更はできないわ。安心して、部屋はたくさん余ってるし、プライベートは保証します」
久遠はなおも反論したが、そのことごとくをセツナは説き伏せていく。というより、苦言のことごとくがセツナの柔らかな物腰に溶かされていくようだった。
握られたままだった手を、久遠は結局ふりほどくことはできなかった。
†
「ここが玄関よ」
我が家に入ったセツナは率先して久遠を案内している。半ば諦めの境地にある久遠は開き直ってそれを聞いた。
(——四年の我慢だ)
学園とやらを卒業さえすれば、久遠は晴れて
「
「余計な
「あら、もしかして転移酔いするタイプなの?」
「……そういうことにしておこう」
実際は転移酔いするような軟弱な体質ではないが、本当のところを説明する気もなかったから適当に返事をしておく。
無意識に右耳の
目の前に、
一方で転移陣は、描かれた
しかし、おそろしく燃費が悪いことが欠点で、
床で無数に光る転移陣には目もくれず、セツナは
扉の脇には掌くらいの大きさの
同時に重低音が遠くに聞こえた。上の階にあった
「
ふたり並んで待っていると、ふいにセツナが訊ねた。
人が直接用いる
そして、予め編まれた式に
卓越した才能がなくても扱えるのが利点だが、
久遠は先ほどセツナが触れた
「問題ないな」
すぐさま把握している。
「さすがね」
「……この程度で持ち上げられてもな。だれでも読めるだろう、これくらい」
「慣れ親しんだ方式ならね。にしたって、久遠くんみたいに瞬時に読めるものではないし……。それとも久遠くんには、
「愚問だな。
「そうね。そういう
「あんたも無理に俺に絡まなくてもいいぞ」
「ふふ、あなたこそ愚問だわ」
軽口を叩いていると、
乗り込んでしばらく待つと、胃の腑が持ち上がるような独特な浮遊感があった。
どうやら停止したらいい。
奥に見える、十人ほどは囲めそうな
その
時計や本棚といった調度品も嫌みのない洒落たものばかりで、簡素だった塔の外観からは想像できない雰囲気だった。
「
どうやら、先ほどセツナが言っていた紹介したい子とやらと、ここで引き合わせる算段らしい。状況から見て、セツナ以外のもう一人の住人なのだろうと久遠は予想する。
久遠は絨毯の上に腰を降ろして待つことにした。和文化の
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