5. 戦場の宿命。探求者たちが迎える死。
「久遠を
「はい。四年間、座学と実技を教わります。隊を組んでの試合もあって、ここで結果を出せば
「だそうよ、久遠?」
千瀬に発言を促され、久遠は呆れる思いだ。
久遠の返答など分かりきった上で、あえて本人に発言させようというのだ。
「すでに
「まあ、そうなるわね」
千瀬は相づちを打ちながら、今度はセツナに目配せした。
セツナは動じることなく、前もって準備していたであろう事柄を口にする。
「学園は多くの種族を募っています。私も
「なるほど、一理あるわね。久遠も私も、他の種族の隊と共闘することはあれど、同じ隊で戦った経験はないわ」
千瀬の共感を得られたことで、セツナの
「
次第に熱を帯びていくセツナの言を、千瀬は頷きながら聞いている。
「セツナさん、種族という枠にとらわれず未来を憂う貴方の心意気には感心します」
そう口にした千瀬から同意を求めるように視線を送られた久遠は、嫌な予感がしてならない。
はたして姉は、この話題をどこへ着地させようとしているのだろうか。それが問題だった。
わずかに逡巡し、久遠は口を開く。
「……たしかに、先日の戦いも辛勝だった。今のままではジリ貧なのは確かだ」
半ば同意しながら、千瀬の真意が分からない以上傍観しているわけにいかないと考えた。どうあっても朱桐家を出るつもりなどないのだ。
「それはそうとあんた。聞いた感じ、あんたも学園に通っているんだよな?」
まずは話題を逸らしてみることにした。
「ええ、そうよ。今一期生だから、来期には久遠くんの一つ先輩にわるわね」
顔をこちらに向けたセツナと、この日初めてまともに目が合った。相変わらず綺麗な色をした瞳だと思考の外側で思った。
それにしても、すでに久遠が学園に入る前提で話してしまうあたり、見かけによらず図々しい性格のようだ。
「……何度でも言うが、俺はここを出るつもりはない。で、医師のあんたがどうして学園に?
「愚問ね。私はあくまで医師よ」
「なら何故?」
言葉少なに問いただすと、セツナの目に色濃い発露の光が灯った。
決意と覚悟、そして不安。様々な想いが入り混じった瞳で久遠を見つめながら、唇を結んでいる。
やがて意を決したように口を開いた。
「
あまりに意想外の発言と、セツナの迸るような熱意に、久遠は思わず体を仰け反らした。そうしながら、頭の中ではセツナの志の意味するところを冷静に分析している。
近年、
致命傷を負った
そして
その後、戦場を鎮圧したところで医療部隊が駆けつけて、救命石を解除して時間を動かし、救命するのが現状だ。
だがこれには大きな問題もあった。
というのも、
これは異次元から
この次元移動に生物の身体は耐えらない。
異次元に区域を座標固定しておける時間も限られるため、その時間の中で
治療が間に合わなかったり、救命石の解除すらされなかった
そういう
つまり、
まとめて異次元から飛ばされてくる
そこへ
そして
もし
先日の
避難していた住民たちは、永劫戻らぬ
必然、撤退が間に合わず取り残される者の大半は、救命石が発動した
セツナが語る、戦闘中に医療行為を行う隊の有益性は疑いようがなかった。
現に那由はそれで救われた。
あのとき那由は救命石の発動を拒んだが、仮に受け入れていたとしても、医療部隊の到着は間に合わず、救命石の
しかし、
「現実的ではないな」
戦闘と治療の両方をこなす隊の存在を有益とみなした上で、久遠は断じた。
戦場に移動するための
相手に戦力で劣れば全滅もありうるのだから、治療より戦力が優先されるのは当然だった。
——治療に加えて、高い次元で戦闘を行える隊。
「戦闘と治療を両立できる隊をつくるだけでも困難だ。それに、そんな隊の存在を本部が許すとは到底思えない」
「まずは戦力としてトップレベルのチームをつくるわ。その上で、臨機応変に人命救助に移行し、少しずつ医療隊の地位を確立する」
意外にもセツナはすぐさま切り返してきた。反論されることは予想していたようで、もしかしたら久遠がこの場で思いつくことなど、すでに熟考済みなのかもしれなかった。
「あんたの言う、トップレベルのチームとやらがまず現実的じゃない。俺のように、すでに戦力になる
「あなた以外の現役
「それは光栄だ。だが俺は傭兵をやるつもりはない。当初の予定通り、学園とやらで人員を確保してくれ」
「……久遠くん、私はあなたを一介の戦闘員にするつもりはないわ」
いつのまにか千瀬の存在を忘れ、久遠とセツナだけの会話になっているが、それほど熱中していることに二人とも気付いていない。
セツナも、身体ごと久遠の方へ向き直り、まさに顔を突き合わせた交渉となっていた。
「久遠くんには、私たちの隊長になってほしい」
はたして、セツナの口から、ようやく真意が告げられた。
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