第2話

 一度目の人生は、ごくごく普通の女子高生だった。


 その時の名前は岸茜音きしあかね。スマホをイジりながら、電車に揺られること七分弱。歩いて六分以内の都内の高校に通ってた。席はあいうえお順で、前から数えて4番目。廊下側の窓際。


 茜音って名前が好きなくらいには、自分を肯定できてたし、社会の教科書に出てくる哲学者を斜め読みするくらいには、悩みを抱えていた。


「茜音って悩みとかなさそーじゃん」


 窓から聞こえたそれは、わたしにとって、何気ない日常の中で突然誰かに刺されるような感触だった。


 あるよ。友達のこととか、恋愛こととか。でも、決まってわたしは笑ってこう言う。


「そうだねー。わたしってレンアイとかあんまり興味ないからねー…」

「もったいなーい。茜音カワイイのに!」

「あはは…そう、かな?」


 椎名夏希しいななつきは悪い人じゃない。むしろ、色々と気にかけてくれる優しい子だ。少し恋愛番長なきらいがあって、ズバズバ言うけれど、全部ひっくるめて友達として好きだ。


 素直で、カワイイし、優しい。

 わたしとは正反対だから。


「ねぇ!茜音!このゲームしってる??」

「なに、それ?」


 夏希がフリマアプリのページをわたしに見せる。当時のわたしは乙女ゲーの乙の字も知らない、ただの女子高生だったので【蒼き瞳のプレアデス】なんてゲームとはほとほと無縁だった。ちなみに、蒼き瞳とプレアデスに因果関係はない(実体験)


「このゲームねー。面白い噂があるの。それはね、ある条件を満たすとこのゲームの世界に行けるんだって」

「へぇ…」


 夏希は恋バナ以外にも、こういうオカルティックな話も好物だった。曰く「九十九パーありえない話だけど、でも、ちょっとはホントかもって思って生きてたら。たのしーじゃん」。オカルトは面白半分が丁度いい。わたしもそう思う。


「暇だしさ、茜音のお兄ちゃんのゲーム機パチって、やろーよ」

「いいね!やろやろ」


 暇潰しを2480円で落札した。それがわたしの人生最大の過ちの始まりだった。








 



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