第3話

 舞台は貴族社会真っ只中の中世風洋物恋愛ファンタジー。青髪高飛車のイケメン王子やら、内気なショタ金髪やら、総勢七人が攻略対象となるこのゲームは、界隈を飛び出して、一般の女子高生にも知られるようになった。


 ゲームの世界へ行くことが出来る。というオカルトが発端で。


 正直、新手のSNSマーケティングか何かだと思うけど。もしも、本当にその世界へ行くことができて、王子様と結ばれる運命にあるのなら、そんな人生を生きてみたいと、一%はそう思う。


 シンデレラ症候群かもしれない。でも、仕方ないでしょ。まだ大人じゃないんだから。


「なんかー、茜音の部屋って無印○品みたい」

「えー。なにそれ。まぁ、どうせわたしの部屋なんて可愛げないですよーだ」

「あ、でも、ワンポイントであるウサちゃんのぬいぐるみカワイイね!」

「ふふっ、そう?いいでしょ」

「うん!かわいー」


 それは昔、兄から貰った誕生日プレゼントだ。不思議の国のアリスをモチーフにしたデザインで、ギュと抱きしめられるくらいの大きさで、古めかしい懐中時計が首から下げられている。思い出と共に色褪せることなく、ずっとわたしを見守っててくれるお守りみたいな存在だ。


「さて、それではさっそく始めようぞ」と、ダミ声でウサちゃんになりきった夏希が、さながら人形劇のように、ウサちゃんを操って、例の【蒼き瞳のプレアデス】のパッケージを学校指定のバックから器用に取り出す。


「なにその無駄な特技…」

「名付けて千年人形浄瑠璃傀儡心中ドミネーション・マリオットべべん」

「ルビもダセー。あと効果音」


「フハハハ」とわたしのツッコミも意に介さない夏希は、テキパキとゲームスタートの準備をする。あれ夏希ってゲームとか出来んだ。以外。


「おや、もしかして、経験者だったり?」

「うーん、だいたいそんな感じ?」

「フーン」


 夏希にこういった趣味があるなんて初めて知った。ひょっとしたら、面白いのかな。


「そいじゃ、はじめますか!」

「よろしくおねがいしまーす」

「―へようこそ」

「え?」


 なにか重要なことを聞き逃した。その部分だけが、マスキングされた機密書類みたいに真っ黒だ。そして、それがなんだったのかは、今になって思い知る。夏希は確かに言ったんだ「地獄へようこそ」って。


「ううん。なんでもないよー」


 不気味だ。その素知らぬ顔の裏に、べったりと張り付いた悪意が、今にも溢れ出しそうなのを、ハンターのように息を殺して我慢しているのだから。


 そして、罠に掛かった獲物を見て、こう言うのだ。


「ごちそうさま♡」

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