消えたマカロン
第41話
「
俺と小林
ちなみに今日のおやつは高級洋菓子店・
「私ならそんなことは起こり得ないな。私はお前のようにぼんやりとは生きていないから、一度会った人間の顔と名前は全てここに記憶している」
小林はそう言いながら、こめかみを指で突いてみせる。
「…………」
本当に憎たらしい。嫌な奴だ。
「だが、万が一そうした事態に陥ったときの対処法は考えてある」
「ほゥ、その対処法とは?」
「自分には双子の姉妹がいるということにするのだ」
小林はドヤ顔でそう言った。
「……どういうことだ?」
「自分と姿形が瓜二つの人間がもう一人存在するということにする。つまり、貴方の知り合いは私の双子の姉であり、私は貴方のことなど知らないと言う」
「そんなの信じて貰えないだろ」
「別に信じて貰う必要はない。こちらが嘘を言っているという確証さえ掴ませなければいいのだ。相手は十中八九、冗談かなにかだと思って笑うだろうが、こちらは真顔で否定する。そうすれば、相手は半信半疑ながらもこちらの設定に乗って話を続けるしかなくなる。そうなれば、主導権はこっちが握ったも同然。姉にお伝えするのでお名前を聞かせて貰えませんか? とでも言えば、相手の素性もわかって、その晩ぐっすり眠れるというわけだ」
「……そんなに上手くいくか? 嘘がばれるとあとで面倒なことになりそうだが」
「ばれるわけがない。考えてもみろ。実際の双子が知り合い全員に『私は
「…………」
確かに理屈としてはそうかもしれない。
だが、推理小説的には双子の後出しはノックスの
「……ん?」
そこで俺は異変に気付く。
俺の皿にあったマカロンが一つ減っているのだ。俺の皿にはもともと三つのマカロンがあった筈だ。それが今、二つに減っている。
「……小林、俺のマカロンをどうした?」
「何のことだ?」
小林は素知らぬ顔で言う。
「
「知らんな。自分で食べたのを忘れたんじゃないのか?」
「…………」
そんな筈はない。まだ俺はマカロンに一つも手をつけていない。
となると、犯人は間違いなく目の前の小林だ。こいつが俺の皿の上にあったマカロンを、一瞬のうちにどこかへ移動させた。
しかし、小林の皿の上にあるマカロンの数も三つだ。単純に俺の皿のから小林の皿に移したのではない。
そして小林はさっきから俺と会話を続けていた。もしマカロンを口の中に入れていれば、俺が気づかないわけがない。よって、その可能性も除外される。
あと他に考えられるのは、小林の前にある使い捨ての透明カップだ。透明カップには牛乳がたっぷり入っている。
――あの中にマカロンを沈めていたとすれば……。
……ダメだ。
マカロンはメレンゲを焼いた軽い洋菓子だ。牛乳に沈めようにもすぐに浮かび上がってしまうだろう。それに上手く沈められたとしても、カップにはたっぷりと牛乳が入っている。そこにマカロンの体積が加われば、牛乳はたちまち溢れてしまう。
「どうした鏑木? そんなに怖い顔して。食べないのか?」
小林がマカロンを一つ指で摘まんで、口の中に放り込む。
「うむ、これは旨い!」
「…………」
俺の中で静かに闘志が燃え上がった瞬間だった。
今のうちに精々いい気になっていろ、小林。
消えたマカロンのトリック、必ずこの俺が突き止めてやる!
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