第23話

 二年前、当時学生だった俺、売野うりの紘一こういちはオカルト研究サークルという集まりに所属していた。

 活動内容(といっても、自由参加で毎回出る必要もないが)は、心霊スポットや廃墟を巡るといった、単なる肝試しのようなものだった。


 ことの発端は、松岡まつおか大吾だいごの一言だった。


「最近、俺の従兄が失踪したんだが多分自殺だと思う。アイツ、暇さえあれば富士の樹海の写真集とか眺めてるような陰キャだったから、今頃は憧れの地で朽ち果てているかもな」


「ちょっとなにそれー、超ウケるんだけど! じゃあ次の行き先は松岡さんの従兄に皆で会いに行くってのはどう?」


 松岡の発言に一早く反応したのは、二年の苺谷いちごたにあかりだ。


 サークルの中心メンバーである松岡と苺谷がそう言ったことで、俺たちは富士の樹海のキャンプ場へ行くことになった。


 富士の樹海キャンプに参加したのは俺(売野)、松岡、苺谷の他に、寒川さむかわ健作けんさく白雪しらゆき美保みほという一年生だった。

 寒川は長身の痩せた男で、白雪は無口で大人しいタイプの女だ。この二人は付き合っているようで、大体何時も行動を共にしていた。


 登場人物は把握できたか?

 リーダー格の松岡、ギャルの苺谷、ヒョロガリの寒川、大和撫子やまとなでしこの白雪、そして俺こと売野。この五人の名前は覚えておいてくれよ。


 東京から俺と松岡が交代で車を運転して、キャンプ場に着いたのは17時頃だった。俺と松岡は疲れ切っていてバンガローでダラダラ酒盛り、苺谷と白雪の女子二人は近くの民宿の風呂に入ると言い、寒川は焚火の為の薪を取りに行った。


 18時、バーベキュー場に行ってみると寒川が真っ青な顔をしていた。何処を探しても白雪の姿がないと言う。電話をかけても出ない。子どもじゃねーんだし、そのうち戻るだろうって俺は言ったんだが、寒川はずっと落ち着かない様子だった。


 そしてそれから三十分しても、白雪は姿を現すことはなかった。

 松岡が直前まで一緒にいた苺谷にそれとなく心当たりを訊いていたが、知らないの一点張り。


 19時、痺れを切らした寒川は、白雪を探しに樹海に入ると言い出した。俺たちは必死に止めたのだが無駄だった。寒川は俺と松岡の制止を振り切って、バンガローを飛び出した。


 本来ならこの時点で警察に知らせるのが適切な判断だったのだろうが、まだ俺は事態を楽観的に考えていた。

 もし仮に白雪が遭難していたのだとしても、無暗に動き回りさえしなければすぐ近くにキャンプ場があるのだ。寒川が見つけて連れて帰ってくるだろうと、高をくくっていた。


 俺と松岡と苺谷の三人はバンガローで酒を飲んでいて、日付が変わるころには眠ってしまっていた。


 翌朝、俺、松岡、苺谷の三人は森の中で首と手足のない、胴体だけの裸の男女の死体を発見する。


 後日、警察のDNA鑑定によって、死体はそれぞれ寒川健作と白雪美保のものであることが断定された。

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