死体パズル

第22話

 依頼人はソファに座るなり、俺と小林こばやしの顔を品定めするようにジロリと睨みつけた。二十代半ばの中肉中背の男性。スーツを着慣れていない様子からすると、社会人一年目なのかもしれない。


「本当にアンタたちが西瓜スイカ殺人事件を解決した探偵さん?」


「……はァ、一応まァそうですが」


 正確には事件を解決したのは俺の隣に座っている、見た目は小学生男子の女子高生探偵、小林こえなのであるが。


 ちなみに西瓜殺人事件というのは、今年の夏に小林の通う高校で起きた事件だ。犯人によって自殺に見せかけた殺人トリックを、小林はいとも容易く見破ったのだった。


「アンタたちに解いて欲しい謎があるんだ」

 依頼人はそう言って、グラスに入ったウーロン茶を一気に飲み干した。

「俺は売野うりの紘一こういち。解いて欲しい謎というのは二年前の冬に起きた、富士の樹海バラバラ殺人事件のことだ」


 バラバラ殺人という言葉を聞いて、俺は反射的に顔を顰める。反対に、小林は顔を紅潮させ、鼻息が荒くなっていた。


「ほゥ、あの未解決事件として有名な」


「知ってるんなら話が早い。俺はあの事件が何だったのか、どうしても知りたい。犯人が誰なのか知らないままでいることに耐えられないんだ」

 依頼人、売野は真っ直ぐ俺を見てそう言った。……いや、俺はその事件のこと、よく知らないんだけど。


「えーと売野さん、その事件は今も警察が捜査をしているんですよね? だったら俺たちに頼むよりそちらに期待した方が……」


 すると売野はテーブルを殴りつけるように叩いた。

「何を言っている、警察に解決できないからアンタたちに頼むんじゃないか! アンタたちなら警察がお手上げの事件の謎も解いてくれるんだろう?」


 ……うーむ、厄介なことになってきた。

 俺は殺人事件というものが嫌いだ。それもバラバラ殺人などという、人を人とも思わないような事件は特に嫌いだ。俺が探偵になったのは、そんな物騒な事件と関わる為ではない。

 俺が探偵になったのは、テレビの再放送で観た工藤くどうちゃんとはまマイクに憧れたからだ。


 ミステリマニアの小林は喜んでいるようだが、俺は正直気が進まない。どう言って断ろうか?


「条件が二つあります」

 俺が何か言うより早く、小林が言った。


「一つは、事件について貴方あなたが知っている限り全ての情報を話してください。なるべく細かく、正確に。もし情報が間違っていたり足りなければ、私の推理は当然間違った方向に行くことになるでしょう」

「……おう、わかったよ」


「もう一つは、真相が貴方にとってどんなに不都合なものであっても受け入れること。その覚悟が貴方にありますか?」

 小林は挑むように依頼人を見つめている。


「……この二年、ずっと考えてきたんだ。もしかしたら仲間の中に殺人犯がいるかもしれないってな。今更、真実を知るのは怖くねェ。何も知らないままこの先ずっと生きていくことの方が、俺は怖ええよ」


「……いいでしょう。それではお話を伺いましょうか」

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