第20話
「何の根拠があってそんなことを言うのかな?」
そう言ったのは
「確かに
「それも
両者の間で見えない火花が散っている。
「おそらく、貴女と吉岡は恋人の関係にあった。否、正確にはそう認識していたのは吉岡だけだったのでしょうが。貴女はそんな吉岡がだんだん邪魔になってきた。そこで、ある殺害方法を思い付いた」
「ある殺害方法?」
トレンチコート刑事が首をひねっている。
「西瓜割りですよ」
小林さんはそう言って意味ありげに笑った。
「音無先輩、貴女はこの場所で西瓜割りをしようと吉岡に持ちかけた。夏休みの思い出作りとか何とか言えば、貴女に好意を寄せている吉岡はころっと騙されたでしょう」
「……殺害方法が西瓜割りってどういうことだよ、小林?」
「手順はこうだ。まずは吉岡に西瓜割りをすると思い込ませる為に、西瓜と長めの木刀を見せておく。その後吉岡に目隠しをして、実際には柄の短いハンドアックスを、刃先が自分に向くように握らせる」
「あッ!?」
そこでようやく私は小林さんの言おうとしていることを理解した。
「そこから先は吉岡は操り人形だ。音無先輩の誘導で自分に襲いかかっているように見えるよう動かし、大崎が図書室に入ってくるタイミングでこう言うのだ。『そこだ』とね。思い切り斧を振りかぶった吉岡の頭には刃先がめり込むことになる」
「でもそれだと、大崎さんに吉岡が目隠しをしているところを見られてしまうんじゃないか?」
「それは問題ない。音無先輩は吉岡を自由に動かせるのだから、自分が窓際に追い詰められた状況を作れば大崎から見れば吉岡は後ろ姿になる。それに事件があったのは17時。西日で入口から教室は逆光だった筈だ。大崎から吉岡が目隠しされていたことは見えなかったのだ」
「…………!?」
何と言うことだ。私は音無先輩の殺人計画に利用されていた。
「だが、このトリックには一つ大きな問題がある。それは西瓜をどう処分するか? ということだ。現場に西瓜が残っていては、そこからトリックがバレてしまうかもしれない。そこで、あらかじめ西瓜畑を荒らしておいたのだ。窓から西瓜を捨てても、そのことが露見しないように」
――そういうことだったのか。
私は全てを理解した。
「なあ小林、犯人は本物の西瓜を用意する必要があったのか? 紙風船でも何でも、もっと処分が楽なものが幾らでもあるだろう」
「鏑木、またお前はそういうことを言う。それだと、吉岡に西瓜割りが嘘だと感付かれるかもしれないではないか。それに吉岡が思い切り斧を振りかぶってくれないと、確実に殺すことはできない。紙風船やビーチボールでは代用は不可能だ」
小林さんが音無先輩に向き直る。
「貴女の誤算は二つ。一つは大崎に西瓜畑を荒らしているところを見られていたこと。もう一つは犯行の最中、私が西瓜畑を見張っていたこと」
小林さんがスマホの画面を全員に見えるように向ける。
そこに映っているのは、上空から畑に西瓜が落ちてくる映像だった。落下した西瓜はその衝撃で粉々に砕け散る。
「これでもまだ負けを認めませんか? 音無先輩」
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