第19話

 図書室にいるのは小林こばやしさん、鏑木かぶらきさん、音無おとなし先輩、警察関係者たち、そして私、大崎おおさき美和みわだ。


「これは殺人事件。それも、狡猾な犯人によって計画的に仕組まれた殺人だ」


「何だって!?」

 トレンチコートを着た刑事が叫ぶ。


「だが小林、吉岡よしおかが自分の頭に斧を振り下ろすところを大崎さんが見ているのだろう? まさか犯人は催眠術で吉岡を操って自殺させたとでも言うつもりか?」

 一方、鏑木さんは小林さんの推理に懐疑的だ。


 勿論、私も鏑木さんの意見に同意する。私は確かに吉岡が自殺する瞬間を見ているのだ。あれが殺人であるなど、到底信じられるものではない。


「催眠術とは鏑木にしては気の利いた表現じゃないか。実に言い得て妙だ」


「……おいおい、本気かよ?」

 小林さんはそれには答えず、ニヤニヤ笑っているだけだ。


「そうだな、殺人事件の前に、西瓜畑で起きた事件の方から片付けておこうか。大崎、西瓜を破壊した犯人は音無先輩だったんじゃないか?」


「…………!?」

 瞬間、私は心臓を握られたかのような息苦しさに襲われた。

 上手く呼吸ができない。


「大丈夫か、大崎さん?」

 鏑木さんが心配そうに私を見ている。


「大崎、お前が西瓜畑にこだわるのは、西瓜を壊したのが音無先輩だと知っていたからだ。何故音無先輩がそんなことをしたのかが知りたくて、お前は私に探偵を依頼した。違うか?」


 ……どう答えればいい?

 沈黙は肯定と同じだ。私はどうすればいい?


「何を不安がることがある? お前は吉岡が自分で自分の頭を割ったところを見たのだろう? ならば私の妄言など一笑に付せばいい。それよりも、音無先輩の謎の行動の理由を知りたいとは思わないか?」


「…………」

 それは、悪魔の囁きだ。

 知りたい。

 私は音無先輩のことなら、どんなことでも知りたい。

 理解したい。


「……見ました。小林さんの言う通り、確かに私は今朝、西瓜畑を木刀で荒らす音無先輩の姿を見ました」


「よろしい。ならば音無先輩が西瓜を破壊した理由を教えてやる」

 小林さんは満足げに頷いた。


「それは、吉岡常生つねおを自殺に見せかけて殺す為だ」


 私は奈落の底に突き落とされた。

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