第17話
――胸騒ぎがした。
それは根拠のない、漠然としたものには違いなかったけれど、私の心臓は早鐘を打つようだった。
あと少し。もう少しで図書室に到着する。
もうすぐ、音無先輩に会える。
音無先輩の顔を見れば、きっと私は安心するだろう。音無先輩は何時も通り、穏やかな笑顔で私を図書室で迎えてくれる。
慌てた様子でやって来た私を見て、少しだけ驚くかもしれない。
そんな、何時も通りの日常。
何時もの音無先輩。
早く。早く。
私は一秒でも早く、音無先輩の顔が見たかった。
私は息を弾ませながら図書室の入り口に立つ。
――するとそこには、思いもよらない光景が広がっていた。
窓際に
そして、音無先輩に向かって両手で握った斧を今まさに振り下ろそうとしている
しかし次の瞬間、意外なことが起きた。
何と吉岡は、自分の頭に斧の刃先を打ち込んだのである。当然、吉岡の脳天は割れ、そこから噴水のように鮮血が噴き出した。
「きゃああああああああああああああああああッ!!」
私は絶叫する。
吉岡はそのまま仰け反るようにして倒れ、それからピクリとも動かなくなった。
「音無先輩!」
私は慌てて音無先輩に駆け寄る。
音無先輩は蹲ったままブルブル震えている。
「一体何があったんですか!?」
「……それがわからないんだ。突然斧で襲い掛かられて、気が付いたらこうなっていた。それより
音無先輩は倒れている吉岡に近付き、タオルで必死に止血しようとしている。
私はカバンからスマホを取り出し、急いで119番に電話をかけた。
「大丈夫か、大崎ッ!?」
私の悲鳴を聞きつけた小林さんが図書室に飛び込んで来る。
「……こいつは確か、剣道部の!?」
小林さんは血まみれの吉岡と音無先輩の顔を交互に見ている。
「違うの、小林さん。吉岡は自分で自分の頭をかち割った。自殺だった。音無先輩は何もしていない」
「……何にせよ、警察に詳しく状況を調べて貰う必要がありそうだな。それから吉岡はもう助からない。あまりにも血を流し過ぎている」
「そんな……!?」
小林さんのその言葉に、音無先輩はショックを受けたようだ。助からないとわかっていても、決して吉岡の傍から離れようとはしなかった。
警察と救急が来たのは、それから十五分後だった。
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