第16話
夏休み中ということもあり、学校に片付ける人間がいないのだろう。
「現場保存の観点から言えば、望ましい状況ではあるがな」
「……それで、これからどうするの?」
私が質問すると、小林さんは大きな西瓜の欠片を拾い上げて、豪快に
「待ち、だな」
「……待ち?」
「犯人は必ず現場に帰ってくる。捜査の基本だ」
「…………」
何だその作戦は?
本当にそんなので大丈夫なのだろうか?
私と小林さんは西瓜畑を見張れる木陰のベンチに並んで座る。
「大崎も食べてみろ。意外とイケるぞ」
「……うん」
小林さんに泥の付いていない比較的綺麗な破片を渡され、私も西瓜に
水っぽくてあまり美味しいとは思えなかった。
「なァ大崎。本当はお前、西瓜畑を荒らした犯人が誰なのか知ってるんじゃないか?」
「え?」
小林さんからの不意打ち。
私は思わず一瞬、固まってしまう。
「……どうして、そう思うの?」
「最初に西瓜畑が荒らされているという話をしたとき、お前は私に『犯人はどうしてそんなことをしたんだと思う?』と訊いてきた。誰がやったかではなく、真っ先にその理由を知りたがった」
「…………」
「更に、大崎自身は壊された西瓜に思い入れはないという。ならば大崎が思い入れがあるのは、西瓜を破壊した犯人の方ではないか、と考えた」
流石は名探偵。
何もかもお見通しというわけか。
「小林さん、私……」
「無理に答える必要はない。大崎が話したくなったときに話してくれればそれでいい。今の私にできるのは、ただ待つことだけだ」
「…………」
小林さんは西瓜を食べながら、畑に真っ直ぐ視線を向けている。
「……小林さんはどうして私の依頼を引き受けてくれたの?」
「別に。ただ、どうしても謎を解きたくなった。大崎が何故そこまで西瓜畑のことを気にしているのかを知りたくてな」
私は腕時計で時間を確認する。
「……小林さん、私そろそろ行くね」
私はそう言って、ベンチを後にする。
「私はもう少し畑を見張っている」
「…………」
私は最後まで迷った挙句、とうとう小林さんに本当のことを話すことができなかった。
――言えなかった。
小林さんの推理は、概ね正しい。
――そう。
今朝、私は見たのだ。
降りしきる雨の中、一心不乱に木刀で西瓜を破壊しまくる音無先輩の姿を。
――私が見た、あの光景は何を意味するのか?
――音無先輩は何故あんなことをしたのか?
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