マリアージュ:ウバ
「兄ちゃーん! お客さんだよ」
ユーマは弾んだ声で厨房で仕込みをしているトーマに声をかける。
「ああ、聴こえていた。今回も複雑な感情を持ってる女性みたいだな」
今はダリア以外の客はいない為、暇を持て余していたユーマの耳にまで彼女の相談内容が聴こえていたのだろう。そう推測したユーマは、すぐに本題へと入った。
「うん。それで、今回はどうするの?」
「もう決めてある。彼女には————」
✳︎✳︎✳︎
「兄ちゃんが作るスイーツに合わせるなら、やっぱりコレかな」
ユーマはそう言いながら、紅茶の缶が並ぶ棚から銀色の丸い缶を取り出した。
「ダージリン、キーマンと並んで世界三代
缶を手にしたユーマは、簡易キッチンまで移動する。
「ミルクティーの材料は茶葉にミルク、グラニュー糖。ミルクティーに向いている茶葉の等級は、葉が細かい
まずは、下準備としてコップに小さじ2杯の茶葉を入れ、そこにお湯をひたひたになるまで入れてフタをする。
次にユーマは小鍋を取り出し、牛乳と水を150ccずつ入れて火にかけた。弱火で全体に泡が出来たら火を止め、お湯につけておいた茶葉を投入する。そして軽く混ぜ、4分程蒸らす。
「この間にカップを選ばなくちゃ」
ユーマは簡易キッチンからカップがズラリと並ぶ棚へと移動した。
「うーん、どれにしようかな⋯⋯。あのくらいの年頃の女の子が喜びそうなデザインのものが良いよね」
僅かな
カップが決まった頃には、ちょうど蒸し終わりの時間になっていた。
急いでキッチンに戻り、鍋のフタを外すともわりと上がる湯気と一緒に、辺りにミルクティーの香りが立ち込める。
ユーマは深く息を吸い込む。ミルクの柔らかさの中に、スーッと鼻から抜ける爽やかな香りがあった。
「うん、今年はしっかりとメンソールの香りが感じられる」
ウバはその年によっては僅かにしか特徴的なメンソールの香りがしない場合もあり、さながら
ユーマは満足げに
✳︎✳︎✳︎
「お待たせいたしました。ミルクティーでございます」
「ミルクティー!? 私、大好きなの⋯⋯!」
それまで真剣な顔で本を読んでいたダリアは、ミルクティーという言葉を聴いた途端、パッと顔を上げて嬉しそうに言った。
「そうでしたか、それは良かった。今回は世界三代
ユーマは、キラキラと瞳を輝かせるダリアの前にソーサーと空のカップを置き、ゆっくりとした動作でポットからミルクティーを注いでいく。
「なんだか不思議な香りがするわ⋯⋯」
「このメンソールの香りこそが“ウバフレーバー”とも呼ばれ、ウバの最大の特徴です。味は少し渋みが強いので大人の味かもしれませんね」
「紅茶の渋みも好きよ。でも、こんなに本格的なものを飲むのは初めて⋯⋯。いつもはペットボトルとかタピオカのお店で飲むものばかりだから」
「淹れたては格別ですよ。どうぞ、香りとご一緒にお楽しみください」
「⋯⋯いただきます」
ダリアはそう言って、コクリと一口、口に含んだ。じっくりと味わうように瞳を閉じた彼女はふうっと息を吐いた後、ゆっくりと
「貴方の言う通り、大人の味ね。香りはミントよりも
ダリアは手元のカップをジッと見つめる。
「このグリーンのカップもとっても可愛い。内側と外側で全くデザインが違うのね? 飲み進めるのが楽しみだわ」
「お気に召したようで良かった。お茶請けのチョコレートもご一緒にどうぞ。それでは、スイーツが出来上がるまでもう少々お待ちください」
ユーマは軽く礼をしてから、再び読書に
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