カルテ269 エターナル・エンペラー(前編) その14
「ええと……あの……その……まあ、なんていいますか……」
まるで胃の調子でも悪いかのように、哀れな老執事は寒空の下、冷や汗をダラダラ流しながらその場を切り抜けようと試みるも、何一つうまい言葉が浮かんでこなかった。
「カルフィーナ様のご宣託の内容についてはちょっと気軽には他人には教えることが出来ないんですよ、すいませんけどね」
見るに見かねたテレミンが後ろから会話に割り込んで、助け舟を送った。
「そ、そうなんですか! ごめんなさい、軽はずみに余計なことを聞いてしまって……」
シグマートはしおらしく謝るも、「ったくシグちゃんったら本当に尻軽なんだから~ん」という背後からの揶揄に、「尻軽はあんたでしょう、イレッサさん!」と即座に突っ込んだ。
「いえいえ、こちらこそ話せずに申し訳ありません。ですが、どんな風だったかぐらいは簡単にならお教えできますよ」
会話の主導権を握ったテレミンは、お告げ所での出来事をかなりの脚色を加えつつもかいつまんで語った。つまり、滞在中に誘拐事件が発生したが運よく被害者を発見することが出来、それによってお告げを優先的に受けることが許された、という具合に。もっともお告げ所周辺でもルセフィ一行については同様に認識されているため、この程度なら喋っても問題なかろうと踏んだのだ。
「ほう、そんな特例があるのか。それは大したものだな」
ミラドールが最初の警戒心も忘れて素直に感心する。
「滞在時間が短くすんで良かったですね。僕たちも手持ちが潤沢とはいえないし、うらやましいです」
「要するに何か事件でも起こって解決すればいいわけよねー。誰かあたいの貞操を狙って夜這いをかけてきたところをギッタギタにしてふん縛ってお上に突き出せば……」
「あり得ない妄言を後ろでブツブツつぶやかないでください、腐れ水虫野郎じゃなかったイレッサさん! それにその話だと誰一人感謝しませんよ!」
「そういえば以前我々も穴兎族の方々と出会ったことがあるのだが、その一家とやらはまだ上におられるのか?」
ギャースカ騒ぐ連れの二人を放っておいて、ミラドールがテレミンに質問した。
「いえ、一足先に下山しちゃいましたよ。残念ですが」
「そうか、すれ違いだったか……もし知り合いだったら、いろいろと教えてくれたかもしれないのに……」
美貌の妖精族は愁眉を寄せると、軽く肩を落とした。
「ところで雪道でのご歓談も結構だけど、そろそろ出発したらどう? なんだか風が強くなってきたわよ」
ずっと黙って聞いていたルセフィがちらと上空を見上げた。いつの間にか雲の動きが空を駆けるように速くなり、そのため彗星の妖艶な赤い光芒は薄れつつあり、白い大斜面を一飛の風が吹き抜けていった。
「……」
その場の七人全てが、なんとなく嫌な胸騒ぎを覚え、思案した。
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