第20話

「遅かったわね」


 駅前は休日ということもあって、人でごった返していた。恒例の待ち合わせスポットになっている銅像の前ではより顕著だけど、すぐに見つけることができた。


 一際目立つ容姿ってだけじゃない。学校とは違う普段の私服も合わさって、なんだか輝いて見えて仕方がない。


「遅いって、一応待ち合わせ時間の十分前なんだけど」

「こういうとき、男の人が先に待っているのが常識でしょう? ああ、でも女の子とデートをしたことがない大上くんじゃあデートについてのいろはも把握できていなくて当たり前よね。ごめんなさい」

「こんだけ傷つけられる謝罪の仕方があるって教えてくれてありがとう・・・・・・・・・」


 相変わらずの態度、毒舌に早くもメンタルをやられてしまう。


「けど、柊の私服って、新鮮だな」

「そう?」

「ああ。驚いた」

「変ってこと?」

「違うって。凄く可愛いし似合って・・・・・・・・・」


 あ、まずい。ついテンパってキャラじゃない恥ずかしいことを。きっとキモがられてまた毒舌が。


「そう・・・・・・・・・・・・どうも」

 

(あれ?)


「大上くんの私服も・・・・・・・・・・・・うん。そうね。マスクいつもと変えている?」

「無理して褒めようとしてくれなくていい!」


  あっさりとした対応に、内心でまた首を大いに捻る。

  

 今日のデート、もとい買い物に応じてくれたときもそうだったけど、俺の知っている柊じゃないような。


「それで、どこへ行くの?」

「ああ。もしだったらペットショップに行こうとおもって」


 とはいえ、恵里奈姉ちゃんに相談してなんとか決めたプランは無駄にできない。


 ペットショップは多種多様な動物がいるけど、中でも犬がたくさんいる。柊なら勿論喜んでもらえるんじゃないかって陰キャなりに


「無理よ」

「え、」


 途端に悲しそうに俯いて、憂いを帯びた雰囲気を発する。


 まさか亡くなったペットのことを思い出してしまうからか? だとしたら悪いことをしてしまったのかも。


「街のペットショップは大体出禁になってしまっているから」

「お前なにしてんの?!」


 いや、ツッコんだあとだけど容易に想像できる。


 きっと俺にいつもしていることをペットショップでもしていたんだろう。


「そうか。なら猫カフェなんてどうかな」


 なんにしろ、まさかのときに用意していた代替案を告げてみた。


「裏切り者」

「なんでいきなり罵倒されたんだ!?」

「きっと犬と猫って毛並みが似てる、同じモフモフの動物っぽいという単純な発想なんでしょうけど。そんな提案をされて喜ぶ女だなんておもわれていた。屈辱も良いところだわ」

「え、ええ~~~?」

「猫には猫の魅力が。犬には犬の魅力があるの。なのに猫でほいほいと満足して猫派に寝返るほど単純な女ではないの」


 曲解がエグい。


「いいこと? この際だから教えてあげるけど、猫と犬は基本的には違うの。まずザラザラしていてヤスリみたいな舌で毛繕いをしている。それによって独特な毛並みが――――」


 一週回って猫好きなんじゃね? と疑ってしまうほど詳しく、わかりやすく、妙な圧力と熱量、なによりイッちゃっている目で延々と語られる。


「ふぅ・・・・・・・・・・・・こんなところかしらね」

「ど、どうも・・・・・・・・・」

「じゃあ次に犬の毛についてだけど――――――」

「まだ続けるんかい!?」

「当たり前じゃない。まだまだ語りたいくらいだわ」

「それはまたの機会ということで!」

「まず、犬といってもその歴史は古く――――」

「しかも毛並みじゃねぇし!」

「当たり前じゃない。私を誰だと? 犬のことになったら夜を徹して語れるわ」

「今日は夕方頃解散予定だろが! そんなことしてたらその話だけで一日終わるぞ!」

「? なにか問題が?」


 うわぁ・・・・・・・・・。本気だ。本気でそれでもいいけどなにが悪いの? って考えてるぞこいつ。


「そもそもあなたがきちんとしたプランを構築していなかったからじゃない」

「う、」

「まぁ最初から予想はできていたけど。怒って帰らないでいるだけでも感謝してほしいくらいよ」

「ありがとうじゃあお前もプラン提案してくれませんかね!?」


 ちくしょう。ダメ出しして文句ばっかり言って。


「じゃあまずは喫茶店で少し休みましょう。疲れちゃったし」


 そこで今日のプランを練り直そう。このままじゃきっと柊に却下されたりいつまで経っても先に進めない。


 というか疲れたのって、お前が犬と猫の説明をしたからじゃない?


「そもそも人狼なのに猫カフェなんて」

「人狼は関係ねぇよ! 俺の元来の性格&ぼっち気質なせいだよ!」


 やっと決まった目的地を目指している最中、そんなやりとりをしている。


「う、うう・・・・・・」

「自分で言っててなにを泣いているの・・・・・・・・・忙しない人」

「そりゃあ俺は柊と違ってこんな機会ねぇよ・・・・・・・・・だからしょうがねぇじゃん・・・・・・う、う、う・・・・・・・・・」

「ガチ泣きしないでよ・・・・・・・・・私が泣かせたみたいじゃない。それに勘違いしているけど、私も男の子と二人で出かけたことなんてないわよ」

「え?」


 つい涙がとまった。


「複数人でグループになって遊びに行ったことはあるけど、男の人とこうして一緒に出掛けること、一度もないって言ったのよ」

「・・・・・・・・・・・・マジで?」

「嘘ついてなにになるの」

「なんで?」

「二人で行くと誤解されるでしょ。それに下心見え見えの人と二人きりで過ごすの嫌だもの」


 誤解。周りから付き合っているとか、相手に好意があるっておもわせてしまうってことか?


「意外だな・・・・・・・・・」

「失礼ね」


 悪い意味で言ったんじゃない。柊は美人だし、モテるからとっくにそういう経験をしたことがあるんだろうなっておもっただけなんだけど。

 それに、そんなことを気にしているなんて。


「まさかこんなところに仲間がいたなんて、と妙な仲間意識を持たないでちょうだい。私とあなたでは事情が違うの」

「曲解がエグいよ!」

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