第21話

 紆余曲折を経て、まずは二人でショッピングへ行くことになった。とはいっても柊は特になにか欲しいというわけではないらしくて、気に入った服を手にとり眺めて楽しんでいるだけだけど。


 恵梨奈姉ちゃんと何度か買い物に行っているけど、どうも女性と男性の感性というのは違うらしい。付き添っている俺としては、買わないのに長い時間服を吟味できているのが不思議でしょうがない。


「悩んでるのか?」


 二つの服を持ったまま鏡で交互に合わせだした柊に、つい声をかけずにいられなかった。


「そうだけど、別にあなたの意見は求めてないわ。どうせ今日は買わないのだし」

「さいですか・・・・・・」

「それにセンスがいいのかどうかわからない人に自分に合う服を選んでもらうほどギャンブラーではないし」

「俺今日来た意味あったかな?!」

「さぁどうかしら。少なくともつまらなそうな顔をされてたら何しに来たの?っておもっちゃうわね」


 ぐ、この・・・・・・。


「そんなこと言ったって、女性の服なんてよくわからないしさぁ。服にも無頓着だし」


 それに、同級生とデート・・・・・・二人で遊びに出掛けるなんて初めてで、どうすればいいのかさえ。


「くそ、せっかく楽しみにしてたのになぁ・・・・・・」


 ついボソッと呟いてしまったあと、視線を感じた。


「楽しみにしていた?」

「! いや、今のは言葉の綾で」


 聞き漏らしていなかったらしい。なんだか気恥しさで焦ってくる。


「つまり。今のあなたは楽しんでいないということね」


 けど、本当はそのとおりだ。柊に不安を抱いていたけど、昨日の夜はそわそわしていた。遠足前日の子供みたいに。

 

 緊張のほうの割合が大きかったし、人狼化しないかさせられないかと想像していたけど、体質改善のための第一歩だと考えれば楽しみになるのは当たり前だ。


 けど、柊の受け取り方と今の俺の反応では、悪いようにしか受け取られない。怒らせたり不機嫌になられるってだけじゃなくて、なんだか嫌だった。


「別にそういうわけじゃない! ただやっぱり場違い感があるし! こういうとき、男ってアウェーじゃん?! 柊は好みの服選べたり着れたりするけど、俺無理じゃん!? それに俺陰キャじゃん!?」


 なんで必死に言い訳してるんだろうか、俺。


「・・・・・・そう。そうね。じゃああなたも体験してみたらいいんじゃないかしら」


 そう言われて連れて行かれたのは男物の服がメインの店。俺の心境は展開についていけてなくて置いてけぼりだ。


「ここなら色々なファッションが揃っているし、いいんじゃないかしら。あなた、好みのファッションってあるの?」

「別にないけど」

「そう。つまらないわね。まさかお母さんもとい恵梨奈さんに買ってきてもらってるの?」

「そんなことよりもなんでここに!?」

「なんでって、ここならあなたも自分の服を選んだり着たりできるじゃない」


・・・・・・。


「だからここならあなたもさっきの私と同じ楽しさが味わえるんじゃないかって」


 え、俺のため?


「そ、そうか・・・・・・でもそうしたら今度は柊が」

「私は別にいいのよ。さっき十分満喫したし。それにわんち――誰かの服を見たり選んだりするのも好きだもの」


今わんちゃんって言おうとした?


 やっぱりどこまでいっても俺はペットと同じ認識なのか?


「そうねぇ。大上くんだったらこういうのが似合うんじゃないかしら」


 普段着ないようなカラフルでポップなシャツと明るい色合いの薄手ジャケット。


「あ、これもいいかも。でもちょっと肩幅が・・・・・・」


 いくつか取った服を体に合わせだし真剣に吟味している。新しい服を選んでいるときはさっきの店と同じくらい楽しそうだ。


「あ、待った。これなんてどうだ?」

「・・・・・・」

「せめてなにか言えよ!」


 そんなあからさまにうわあ、まじかよ・・・・・・って引いた顔するなよ。


「あ、でも。これなら合うんじゃないかしら」


 いや、待て。おかしい。


 あの柊が俺と一緒にいて人狼化させようとしないのはいくらなんでもおかしい。

人目があって大騒ぎになるという懸念があるとしてもだ。


「試着してきたらどう?」


 やっぱりそう来たか。


 試着室という他者の目が届かない密室。そこに行くよう誘導してたとしたら。そこでなにをするつもりなのか。


 読めた。


「いや。どうせ俺も買わないし試着はいいや」


 きっとここで試着室に二人で入って俺で楽しむつもりなんだ。こんな外で。しかもバレたら一巻の終わりな状況だったら俺も抵抗が簡単にできないと見越して。


(柊美音。おそろしい子)


「そう? もったいない」


 ほら。あからさまに残念がってるじゃないか。きっとこれからなにか理由を付けて試着室に行かせようとするんだろう。


「それに、柊のセンス良いし。着なくても多分合ってるんだろうなってわかるし」


 けど、そうはいかない。完全に柊の人となりを把握できているんだから徹底的に拒ませてもらう。


「・・・・・・」


(あ、あれ?)


「まぁ、大上くんがいいならそれで」


(なんかあっさりと引き下がったぞ。それに若干赤くなってる?)


「このお店。時計やアクセサリーも売っているのね。そっちも見てみましよ」

「あ、ああ」


 なんだかいつもの柊のじゃない。

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