第19話
「ただいま〜・・・・・・」
今日も散々だったな。なにせ朝、昼、放課後と合計三回も柊に弄ばれたのだ。心身ともにぐったりと疲れきって帰宅した。
「おかえり〜。ありゃ、今日は一段と疲れてんね〜」
すぐに自室に行こうとしたら、リビングで寛いでいた恵梨奈姉ちゃんに呼び止められてしまった。
「もしかして柊ちゃん?」
ニヤニヤしながら尋ねてきてるが、興味津々だというのが全面に出ていて隠しきれていない。
机に突っ伏するまでに陥っている俺は、そのことをツッコむ余裕はない。半ば愚痴のように最近の柊について語った。
「ふぅーん」
ニヤニヤが強まっている。
「よかったじゃん」
「はあぁ?」
俺の話を聞いてどこが良かったなんて言えるんだこの人は。
「最初はどうなることかとおもったけど、安心したわー。あははは」
「笑い事じゃねえよ。どこに安心できる要素があったんだよ」
「だって謙ちゃん楽しそうだし」
「・・・・・・」
「きっと柊ちゃんにモフられてるとき以外では充実してるんじゃないかな」
それは・・・・・・否定できない。そう感じてしまう時、瞬間はある。
柊が満足したあと、ちょっとした時間にするやりとり、会話。何気ない話題。見たドラマや授業の内容、あった出来事を話すことができている。
そのときは俺も友達ってこういうことを言うんじゃないか穏やかな・・・・・。ってそうじゃねえ。
「それに瞬くんだって少しは嬉しいんじゃない? あんな美女とイチャコラできるんだから。ね? 思春期のお・と・こ・の・こ」
「あのなあ・・・・・・発情しているリッカーとイチャコラできて嬉しい人間なんているか」
恵梨奈姉ちゃんはモフモフしているときの柊を見たことがないから笑いながら流そうとしている。
「それにもし俺が人狼化しなくなったりモフれなかったら柊だって関わってこないだろ」
「そうかな?」
「そうだよ。そもそもそれが理由なんだからな」
「瞬くんはそれでいいの?」
「良いに決まってるじゃん。だってそれ、俺の体質がまともになってるってことじゃないか」
「そうじゃなくって。柊ちゃんと疎遠になっちゃったり一緒に過ごせなくなっても」
「当たり前だろ」
そもそもはそれが目的なんだから。最近だと柊もそれを理由にして人狼化させようとしてくるくらい。双方合意のもと、成り立っている。
今の状態だといつになるか見当もつかないけど。
「ん〜。勿体ないなぁ〜」
「なにがだよ」
「いや。瞬くんの体質改善は喜ばしいことだよ? でもそうなったとしてと、今後瞬くんに恋人ができるって確証にはならないでしょ?」
「姉ちゃん。デリカシーって知ってる?」
「ただでさえ長い陰キャ暮らしで培われた暗くて後ろ向きな性格が今更直るとはおもえないし。人狼っていう個性を失ったらただの糞陰キャになっちゃうじゃん。改善どころか改悪だよ。それもはや」
「姉ちゃん無自覚の虐めってわかる?」
「つまりさ。柊ちゃんと付き合っちゃえばいいんじゃないかって言ってるの」
「ありえない。無理。絶対やだ」
だって柊と付き合うってことはずっとモフられ続けるってことじゃないか。
「ありのままの瞬くんを受け入れて一緒にいてくれる女の子がこの先現れるかどうかわかんないんだし、だったらいっそのこと付き合っちゃえば万事解決っしよ? やば、あたし頭良すぎ?」
「ただ臭いものに蓋の理論じゃねぇか。あんたそれでも学者?」
「でも柊ちゃんも悪くはおもってないとおもうんだけどなあー。やりとりしてる様子だと」
「やりとり?」
「うん。携帯で」
(いつの間に?!)
「勘違いだって。柊が俺と付き合うわけないだろ。ただモフモフできる毛並みのいい生き物みたらなんにでも興奮してモフれちゃう尻軽なんだよ」
「謙ちゃん柊ちゃんをなんだとおもってるの?」
「クレイジー変態ケモナー」
「柊ちゃんに伝えとくね」
「おいバカやめろ!」
「じゃあデートに誘ってみたら?」
で、デート?
「普通の友達みたいに恋人みたいに。謙ちゃんがそんなに疑うんなら」
無理に決まってるだろ。
人の多いところとか一目しかない場所は、行かないことが暗黙の了解になっているんだ。それにモフれない状況に自ら赴くとはおもえない。
「あいつは俺のモフモフにしか興味がない女なんだよ」
「そんなに疑っているんだから試してみなよって話。あ、でも無理か〜。彼女どころか友達さえいないんだからどう誘えばいいか不安でガクブルだもんねー。ごめんね? お姉ちゃん謙ちゃんがビビりの腰抜けだってこと忘れてたよー」
「ぐ、」
「あ、あと童貞だもんねー(笑)」
「今から誘ってやるからそこで待ってろ!」
てめえは俺を怒らせた。
陰キャにだって陰キャなりのチンケなプライドがあるんだ。陰キャだとか腰抜けは許せるけど童貞はダメだ。超えちゃいけないライン考えろよ。
ムキになって柊に今度の休み遊びに行かないかと簡潔なメッセージをアプリで送る。中々返事がこないうちに、ほら見ろやっぱりじゃないかと恵梨奈姉ちゃんに勝ち誇る気分に。そして泣きたくなる気分に。
もう諦めて夕食の準備をはじめようとしたとき、携帯が震えた。
『何時に待ち合わせ?』
(あれ?)
『どこにいくの?』
(・・・・・・・・・・・・あれ?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます