第11話
「じゃあ二人一組でペアを作れー」
体育の時間ほど一番キツい授業はない。次々と二人組を作っていく光景を虚しく眺めているしかないからだ。
「大上・・・・・・先生とやるか?」
「はい」
あちこちでボールが飛び交う度に楽しそうなクラスメイト達は声を弾ませる。いつもだったらなにも考えず時間が過ぎるのを待っているだけだけど、今日はどうしようもなく辛い。
「お、大上けっこういい球投げるな。もう少し離れてみるか」
「ええ。大丈夫です」
決意を新たにしたからか、可能性を持って前向きになれたからか。感情が浮き彫りになっているのを自覚する。
こういうとき、誰かに話しかけていればなにか変われたんじゃないか? なのに一歩踏み出す勇気が出なかった自分が情けない。
こんなんじゃいつまで経っても・・・・・・。
「おい、あれ見ろよ」
すぐ近くにいる男子をきっかけに、一定の方向にチラチラとした視線が向けられているのに気がついた。
何故なのかすぐわかった。
野暮ったい体操着でも隠せない人目を惹く容姿が一際輝いている。しっかりとした体の動きやフォーム、汗をかいていながらも息一つ乱れていない凛々しさは女性であってもカッコイイとしか形容できない。女子の一団に混じっていても誰より目立っている。
「やっぱ柊っていいよな」
「な〜」
・・・・・・悲しいことに、皆の下卑た意見には同意するしかない。こうして見ていると美少女にしか見えないんだから。
俺と一緒にいるときのキチガイっぷりはなんなの?ってくらい別人。
合間に女子と談笑していてなにを話しているのか、時折男子達のほうへと視線を向けている。
偶然か、勘違いか。目が合った。不意なことだったのてあ心臓が跳ねたけど、ムッと顰めるとすぐに逸らされてしまった。
なんだよちくしょう。なにもそんな態度とらなくても。
・・・・・・。
いや、彼女自身が言っていたじゃないか。人狼である俺しか興味ないって。
つまり今の俺はただのクラスメイト。というかそれ以下の存在でしかない。
わかってる。わかってるけど、彼女の都合のいい扱いをされているようで面白くない。
人の気も知らないで。毎回どれだけこっちが大変なおもいをしてるか。
そもそも柊の歯に衣着せぬ言動はなんなんだ。
柊に関連した不満がふつふつと心の中で溜まっていく。
やってやる。
心の中でやる気が突如メラメラと燃え上がる。
俺だって変わってやるんだ。見てろよ。対抗心にも似たやる気が芽生える。
そうだ、俺だっていつまでも都合のいい人狼のままじゃない。
絶対に克服してやる。そんでもっって――――
「大上! 危ない!」
「え?」
直後、顔面に激しい衝撃。視界と体がゆらゆら揺れる。
「大上! おい!」
鈍い痛みが強まっていくと共に意識と周囲の声が遠くなっていく。
やっぱ無理かも。
手放す直前の思考の中、最後に浮かんだのはそれだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます