第3話 懐かしのいぬ地図

 自分は、「動物が好きじゃない派人間」である。普通に可愛いと思うし、動物園や水族館も行くのは好きだ。けれど、遠くから眺めているだけで十分だし、飼う自信もない。そして、ペットとして代表格の犬は、子供の頃は少し怖かった。


 子供の日常的な行動範囲は、家の近所や学区域辺りだろう。その狭いエリアの中で、自分には犬地図が存在していたのに大人になってから気づいた。

 あの家には〇〇っていう名前の白い犬がいて、その先の家にはよく吠える茶色い犬がいる。あっちの方面には、鎖が長い犬がいるから遠回りしようかな‥。と、自然とあちこちの犬の存在を知っていたのだった。


 犬ポイントの前に差し掛かる。ここの犬は歩道に割と近い犬小屋に繋がれている。いつもこちらを警戒しているし、吠えられる事もある。隙を見て走り抜けよう‥。そんな風に個人的なピンチを切り抜けてみたり、たまたま散歩中なのか犬小屋に繋がれていないとホッと安心して通ったのを覚えている。

 少し苦手でも当たり前の風景の一部として毎回チラッと確認をしながら通ったものだった。

 そして、ある日から犬小屋があるのに見かけないコに気づくと、やはり寂しい気持ちになったものだ。


 きっとこれは犬好き・苦手どちらにもあったはずだ。「好きな」・「苦手な」犬を飼っている家の頭の中の地図が。


 年月が経ち、もうあの犬達はいなくなってしまったけれど。ここには昔こんなわんちゃんがいたなぁ、と今でも結構覚えている。

 飼い主の方とは面識なくとも、意外と誰かのペットの事を忘れずに懐かしく思う人は沢山いるのかもしれない。


 現在、地球の気温上昇やペットの生活改善の普及もあり、庭に繋がれてた犬はほぼ見かけなくなった。お散歩をしている室内飼いと思われるわんちゃんは、どこのお家の子かあまりわからない。

 今の子ども達には、犬地図の共感は得られないのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ノスタルジックな町に暮らす人。 宮吉 雨子 @amekos

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ