第2話 伝説の駄菓子屋

 かつては子供だった大人達に、思い出を残してくれた駄菓子屋。この町にかつてはいくつもあった駄菓子屋の中で、1番人気だったお店が「〇〇堂」だった。


  ワクワクしながらガラス戸を開ける。奥から店主のおじいさんが「いらっしゃい」と出てくる。木製の杖をつきながら椅子に腰掛ける。この流れが一種のルーティンで完璧だった。

 この店主のじいさんが、なかなか頑固そうで、愛想が良いわけではないのだ。

 でも、たまに不在なのか息子らしいおじさんや、スーパーレアで奥さんであろうおばあさんがお店に出てきた時は、なんだか少し残念な気持ちになったのを覚えている。


 駄菓子の他に古めかしい小さなおもちゃ類と、昭和から並べられている物もありそうな色褪せたタワシや石鹸類もあった。

 駄菓子屋特有の匂いと、石鹸類からの薬の様な匂い、人の家の匂いがする。柱時計はカチコチ鳴っている。ひ日めくりカレンダーがかかっている。

 そんな中、駄菓子の仕入れの時の空き箱の蓋に選んだお菓子を乗せていく。

 じいさんがジッと座っている。少し前にSNSで万引きしないか厳しい顔でジッと見張っていたと思い出を書き込んでいた人がいた。

 もしかしたら生意気盛りな小学生に対してはそういった理由もあったのかもしれないし、大人と一緒に買いに来た幼女にすらお菓子を選ぶ間、緊張を感じていたのは確かだ。

 でも、そんな所があのじいさんの味だった。


 駄菓子の種類・ラインナップは完璧だった。選びやすい様に棚も設置されていたし、賞味期限が切れているなんて事もなかった。今でも見かける駄菓子も多くある中、100円分程に頭で計算しながらどれにしよう、と選ぶのだ。

 スーパーボールや鈴のくじもたまにはしたいし、当たればドーナツ・はずれで串の鈴カステラのくじ、何等かによって豪華さが変わるガムのくじと、そのどれか1つはやりたかった。


 選び終わったら計算をして貰う為にじいさんの所へ持っていく。震える手でお菓子入りの箱蓋を受け取った後、ソロバンを持ち出し計算をしてくれた。

 シワシワの手に代金を乗せる。そうすると、買った物は広告や日めくりカレンダーの紙で手作りした紙袋に詰めてくれるのだった。

 ペロっと指を舐めて、張り付いている紙袋の口を少し晒し、出来た隙間にフーッと息を入れて広げる。当時は子供だったし、それも許容の範囲内だった。その袋に入った駄菓子達が大好きだった。


 今思えば、子供が好きでなければ駄菓子屋を続けていくのは難しいだろう。たくさんの商品を取り揃えてくれていた事、手作りの袋の準備、客で来る子供達の事をちゃんと考えてくれていたのだなと感じる。最高の駄菓子屋の思い出を作ってくれた〇〇堂に感謝しかない。

 〇〇堂の跡地を見るたびに、そんな事を思い出す。

 


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