第15話 失いたくないもの

 誰かの幸せを祈る時、必ず思い出すとある小説の一節がある。

『僕はもうあのさそりのように』で始まる一節だ。

 宮沢賢治先生の【銀河鉄道の夜】。

 その続きは、

 ほんとうにみんなの幸(さいわい)のためならば僕のからだなんか百ぺん灼(や)いてもかまわない。

 である。

 昔、女優の宮沢りえさんがCMで音読していたのを、よく覚えている。

 私はこの作品、アニメ映画での出会いが一番最初だった。

 キャラクターは猫で、当時の私は映画を観てもよく理解できず、なんだかとてもファンタスティックだなぁ、で終わっていた。

 その後国語の授業で【やまなし】という作品を読み、宮沢先生の描く世界にどっぷりはまった。

 カニの兄弟や親子、カワセミに攫われる魚。

 幻想的でありながら、その様をリアルに読み手に思い描かせる。

 なんて素敵な世界を書く人なんだろう!

 と、小学生の私はとても感動したのだった。

 だが【銀河鉄道の夜】を含む他の宮沢先生の作品をきちんと読んだのは、そのずっと後の事だ。

 銀河鉄道の夜、ひかりの素足、注文の多い料理店、よだかの星、雨ニモマケズ。

 まだ読んでいない作品もあるような気がする。

 誰かの幸せの為ならば、自身をなげうっても構わない。

 それは、小心者で意気地なしの私には難しい。

 私にできるのは、祈りの言葉を捧げることくらいのものだ。

 だが、これらの物語に打ち震える心は失いたくないと、切に願うのである。

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