第3話 セカンド インパクト1
両親が海外旅行に出発した夜、ぼくはかつてないほどに悩んでいた。
ゆめちゃんは今、まさにこの瞬間、お風呂に入っている。そう、裸でお湯を浴びている。
すぐそこに全裸の濡れたゆめちゃんがいるんだ!
この状況でぼくの頭には3つの選択肢が浮かんでいた。
1 こっそり覗く
2 間違ったフリをして浴室へ闖入
3 幼子を装って自然にお風呂へ突入
だがしかし、恐らく「3」はない。
あれだけ天然でオタクのゆめちゃんでも、血の繋がっていない、最近出来たばかりの小6男子の弟と一緒に風呂に入るなんて、絶対、抵抗があるはず……。
それなら「2」はどうだろう。おっちょこちょいな小学生の弟が、勢いよくお風呂の扉を開けたら、そこには裸のお姉ちゃんが……。
うん、少年マンガによくあるサービスイベントだ。これなら自然にゆめちゃんの裸が見られそう。
だが、しかし!
入ると同時に追い出されてしまう可能性もかなり高い……。また脱衣室でゆめちゃんの服……、さらに下着が脱いであるにもかかわらず、気づかずに入室したと言い張るのはちょっと苦しい。かなり苦しい。なおかつ脱いだばかりのゆめちゃんの服……、ってゆうか下着を前にして、ぼくは平静を保っていられるのか、はなはだあやしい。いや下着をスルーすることなんて絶対無理! そこにかわいい女の子の下着があれば、被ってみなきゃ漢(変態紳士)とは言えない。そしてさらにタイミング次第でゆめちゃんが浴槽に浸かっていた場合、ろくにおっぱいを見られず、なおかつ、ぼくの好感度を確実に落とすといういいとこ無しの結果になる。
現在のゆめちゃん攻略がどの程度進んでいるのか、リアル童貞のぼくにはさっり見当がつかないけれど、これまで築き上げてきた好感度貯金は吹き飛ぶに違いない……。
勝負は事前準備や!
やっぱり下着を楽しめないのは惜しいけど……、かなり勿体ないけど……、ハイリスク、ハイリターンは避けたかった。まだまだゆめちゃんを抱けるまでの道のりは長いのに、こんな序盤の選択ミスでつまずく訳にはいかなかった。
絶対に失敗できない!
しかし裸は見たい。なんとしても見たい。そこにゆめちゃんの裸があるのなら、どんな手を使っても見るのが漢(武士の嗜み)というものだ。
やはりここは多くの先人達が歩んできた道。つまり気付かれないように物陰からこっそり覗くのがクレバーな選択だった。
熟考の末に結論を出したぼくは足音を忍ばせて浴室に近づいていった。自然に顔がにやけてしまう。
ぐふふっ! ゆめちゃんのおっぱいはどんなだろう? ゆめちゃんだけに夢は膨らむばかり!
「バタン!! 」
「ひっ!!? 」
不意にキッチンの方から何かが倒れたような音が聞こえた。
後ろめたさ全開のぼくはビックリして腰を抜かす。
「な、何!? ……何の音?? 」
こ、この家にはぼくと夢ちゃんしか居ないはず……。
慎重に周囲を見回した。
辺りは静まり返り、浴室から聞こえてくるゆめちゃんのシャワーの音だけがやけにクッキリと耳に入ってきた。
まさか……、事故物件だけに心霊現象!?
そしてぼくの頭に新たな選択肢が浮かんだ。
1 音の主を確認する
2 ゆめちゃんの裸を確認する
かなり迷ってから、ぼくは「1」を選んだ。
ゆめちゃんの入浴はなんとしても見たかったけれど、さすがに不審な物音を放っては置けない……。今、この家に居るのはぼくとゆめちゃんだけなのだ。ゆめちゃんを守れるのはぼくしかいない。
「シャァァ……」
響くシャワーの音がぼくの後ろ髪を引く。
今頃、ゆめちゃんはスッポンポン……。
「恐怖:不貞腐れ=1:9」の割合でぼくはキッチンに向かった。
この家の台所はリビングとダイニングがくっついているカウンターキッチンだった。
全体的にすごく広々としていて、天井も無駄に高い。内装もまるで高級タワーマンションのショールームみたいに小洒落ていた。まだ引越して間もないので部屋の中に生活感は殆ど無く、この家はどこも必要以上に人工的な印象だった。
リビングに入ったぼくは黒くて大きな革張りソファーと楕円型のローテーブルをすり抜けて、無垢材のダイニングテーブルの先にあるカウンターキッチンに目をやる。
ちなみにインテリアは全て以前に住んでいた夫婦が残したものをそのまま使用している。お父さんも新しいお母さんもこのスタイリッシュな家に合う家具を揃えるにはお金もセンスも足りなかったので、喜んで前の住人のものを使わせてもらっていた。
ぼくはまるで高級レストランのようなカウンターからキッチンを覗き込んだけれど、特に異常は見当たらなかった。念の為、カウンターの裏のシンクに回り込んでみる。
「あれ……? 」
ぼくは思わず声を上げた。
驚いた事にキッチンの床がまるで扉のようにパックリと開いていたのだ。
その穴は大人が2人くらい並んで入れそうな大きな通路だった。中には下へと続く階段が見える。階段は短い間隔で折り返して地下へと続いていた。
階段からはほのかに風が流れていた。
きっとこの階段はどこかに繋がっていて、吹き抜ける風がキッチンの床に隠された扉を押し開けたんだ。
階段の横には一定間隔で壁に埋め込まれた白い照明が見えた。
「電気がついてる……」
キッチンから地下へと続く通路には不釣り合いなスクエア型のオシャレな照明が一定の間隔で設置されていた。非常灯には見えなかったし、電気がつけっぱなしなのは不自然だった。
この階段の先には何があるんだろう……。
興味を惹かれたぼくは、玄関から靴を取ってくると地下への階段を降りてみる事にした。
いつもならこのタイミングで選択肢が思い浮かぶはずなのに、何故だかぼくは誘われるように迷わず地下への階段を降りていた。
階段はかなりしっかりした作りで、新築のオフィスみたいにチリひとつなく清潔だった。
一戸建ての台所に地下への立派な隠し階段があるなんてかなり奇妙だったけれど、作りが上にある建物と似ていて真新しくスタイリッシュなせいか、あまり怖くはなかった。
「この家の建っている丘の麓にでるのかな……」
なんとなく呟いたぼくの声は、自分の声じゃないみたいに聞こえた。
とりあえず階段を降り続けているけれど、いつまでたっても何処にも辿り着かなかった。この階段はぼくが想像したよりずっとずっと深くまで伸びているようだった。自宅の建っている丘はせいぜい20メートルくらいの高さだ。けれど階段は折り返しながらかなり深くまで続いていた。
「どこまで降りていくんだろう……? 」
声はやっぱり、ぼくの声じゃないみたいに響いた。
この場所では音が不思議な響き方をする……。
ぼくは段々、不安になってきた。
階段の床は特殊な素材でできているのか、靴を履いてるのに足音が全然しなかった。上からも下からも一切の音が聞こえないから、静かすぎて耳がキーンと痛くなる。
「……」
壁は灰色のコンクリートのようなのっぺりとした素材で出来ていて、備え付けられている丸い照明には淡いベージュの明かりが灯っていた。
あれ……、さっきまで照明は四角くなかったっけ?
なんだかここに入ってからの記憶が曖昧だった。何か不自然だった。
ここはおかしい……。
大体、誰が何の目的でキッチンの床に地下深く伸びる階段なんて作ったんだろう。
一体何のために……?
それでもぼくはどんどん階段を降りていった。特に理由もないのだけれど、下へ下へ降りて行かなければ行けない気がした。
そして唐突に、踊り場のようなスペースについた。
そこは四方を白から灰色のグラデーションでマダラ模様になった壁に囲まれていて、正面にはレストランの冷蔵庫のようなピカピカした大きい銀の扉があった。
辺りは相変わらず耳が痛くなるような静寂……。
ここまで来たんだからと扉に手をかけた時、ふと嫌な予感がした。
念のため扉に耳を当てて中の様子を伺ってみる。
「ピチャン……」
魚が跳ねるような音がした。
「中に水槽でもあるのかな? 」
呟いたぼくの声はいつもの調子に戻っていたので少し安心する。
またもや……、いつもなら「扉を開ける」か「ここで引き返す」の2択が思い浮かぶはずなのに、その時のぼくは何かに操られるみたいに迷わず扉を開けてしまう。
「フォン……」
銀の大きな扉を開けた時、圧縮された空気が逃げたみたいな音がした。
部屋の中はひどくガランとしていた。広さは学校の教室くらいあるのにほとんど物がない。壁はツルツルした真っ白なタイルみたいなものでできていて、階段と同じで素材はよくわからない。試しに壁を叩いてみると「ボムッ」とくぐもった音がした。感触は硬いゴムタイヤみたいだった。
部屋の真ん中には、ポツンと白い土管のような物が備え付けられていた。白い土管は部屋のちょうど中心にあって、まるでこの部屋はその土管の為にあるみたいだ。
土管は井戸みたいに床から垂直に伸びている。てっぺんには潜水艦の扉のようなもので口に蓋がしてあった。蓋は隙間なくみっちりと閉じられていた。
試しに土管の蓋についたハンドルを回してみたけれど、ぼくの力ではピクリとも動かなかった。
この空間を取り囲む真っ白な壁際にはピカピカのステンレス棚が並んでいた。棚は殆ど空っぽで、1番下の隅っこに1つだけ透明の瓶が置いてあった。
瓶の中身は空だった。
瓶の口はピクルスを作るときに使うような密封型だ。試しに瓶の蓋を開けてみる。
「スゥゥゥ……」
空気が抜けるような音がした。
中の匂いを嗅いでみると少しだけ魚のような生臭い匂いがした。
「スゥゥゥ……」
瓶の口からはまだ空気が抜けていくみたいな音がしている。
ぼくは不安になって瓶の口に蓋をした。
「……」
音が止んだ。
「……あれ? 」
密封瓶を棚に戻したぼくは別の小瓶が床に落ちているのを見つけた。
その瓶は透明の細長いひょうたんみたいな形をしていて、側面が割れていた。きっと何かの拍子に棚から落ちて割れてしまったんだろう。
この瓶も中身は空で、瓶から強い塩の香りがした。割れた小瓶のそばには長方形の白い紙が落ちている。
紙切れを手にとった瞬間、ぼくの首筋あたりで「シャッ! 」という不思議な音がした。
驚いたぼくはパッと振り返ったけど、うしろには何もいなかった。
ぼくは気を取り直して紙切れを眺める。紙は上質なもので、赤字でグシャグシャした字体の漢字の様なものが書かれていた。文字みたいに見えるが全く読みとれない。
「中国語かな? 」
よくみると割れた小瓶の口のところにシールが剥がれた様な跡がある。
この紙切れはどうやらひょうたんみたいな小瓶に貼られていたモノらしかった。地震か何かで棚から瓶が落ちて割れてしまい、貼り付けてあった紙が剥がれたみたいだ。
なんとなくぼくはその紙切れをポケットにしまった。
それから辺りを隈なく調べてみたけれど、他には何も見つからなかった。
結局、このだだっ広い地下室には空っぽの瓶が2つと、蓋をされた土管があるだけだ。
わざわざあんなに長い階段を降りてきたのに、この部屋には結局、何もなかった。
なんだか拍子抜けしてぼくはため息をついた。
ぼくがここに入ってから大分時間が経っていた。この場所が何のためにあるのかさっぱりわからなかったけれど、これ以上ここにいても仕方がない。
ぼくは上に戻ることにした。
長い登り階段を覚悟したけれど、不思議なことに帰りはあっという間にキッチンに到着してしまった。
降りる時はあんなに長かったのに……。
ぼくは釈然としない気持ちのまま、台所の床で大きく口を開けている扉を閉めた。
「バタン……」
閉めてしまうと、そこに扉があったとは思えない程、扉と床の合わせ目がぴったりと合致していて隙間が全くなかった。ぼくの目の前には、綺麗な一枚板の床があるだけだ。
「ホントに隠し扉だ……。あれ? 」
ふと気がつくと、ぼくの右手には地地下室て初めに見つけた密閉された小瓶が握られていた。いつのまにそんな物を持ってきてしまったのか、自分でもわからない。
「シャャャ……」
随分時間が経ったはずなのにお風呂からはまだシャワーの音がしていた。
「ゆめちゃん、……随分長風呂だな。これは……、ラッキーや! 」
ぼくは当初の目的を思い出し、足取りも軽く半笑いでバスルームに向かった。何はともあれやっと本来のミッションに戻れるのだ。
ゆめちゃんのオッパイはどんなだろう?
乳首はピンクかな?
ぼくはドキドキしながらお風呂の扉に手をかけた。
「カチッ……」
バスルームの扉にはしっかり鍵がかかっていた。
そうだった……。この家はほとんどの部屋に内鍵が付いていたんだった。
なぜそんな大切な事を忘れていたんだ! 真っ先に考慮しなければいけない事案を見落とすなんて……、これだから童貞はダメなんだ!
ぼくは自分の甘さに唇を噛む。
「シャァァ……」
虚しくシャワーの音が響いていた。
ちっ! ちっっ! ちぃぃ!!
ほんの数メートル先にゆめちゃんの裸があるのに……。おっぱいはすぐそこなのに……。
ガックリ肩を落としトボトボ部屋に戻った。
「えっ!? 」
失意のうちに部屋へ戻ったぼくは、時計を見て思わず呻いた。時計の針はさっき部屋を出てから5分も経っていなかった。ぼくは首を傾げる。
「……ありえない」
あの長い階段を降りて地下室に行って帰ってくるのに、どう考えても30分以上 掛かっているはずだった。
5分は有り得ない……。
茫然とするぼくの頭に選択肢が現れる。
1 もう一度、キッチンの隠し扉を探す
2 もう一度、お風呂覗きにチャレンジ
3 とりあえず、オナニー
よし……、オナニーしよう。
ぼくは混乱してきたのでオナニーをする事にした。こんな時はマスターベーションしかない。とりあえずスッキリして気持ちをリセットしよう。モヤモヤする時はオナニーが1番だ。
窓から「ザァァ……」っと雨の音がした。外では雨が降り出したみたいだ。
ぼくは手早くパソコンを起動して最近見つけたお気に入りのエロ動画を再生した。
それは大学生の綺麗なお姉さんが主人公で、隣に住む怪しい男がお姉さんを盗撮するというストーリーだった。大学生のお姉さんはメガネを掛けた美人で、やたら隙だらけの格好でゴミ捨てに出たり、窓を開けて着替えていたり、カーテンを閉めずに灯のついた部屋で彼氏とセックスしたりするセキュリティ意識ゼロの女の子だ。リアリティはないのだけれど、のぞきは今のぼくの気分にはぴったりだった。
動画を観ているとぼくのちんちんはすぐに大きくなった。
本当はゆめちゃんの裸を見ながらできたら最高なのにな……。
動画の中では突然侵入してきた隣に住む気持ち悪い男にメガネのお姉さんが犯されている。風呂上がりのはずなのにお姉さんはメイクバッチリで隙なくかわいい。画面の中のお姉さんにゆめちゃんを重ねる。ぼくはすっかり興奮してしまう。右手でちんちんを激しくしごく。
自分の手の振動で机がカタカタ揺れた。
すぐに熱いものがこみ上げてくる。
「うっ! 」
ぼくは左手の中に射精した。頭の中が真っ白になって腰の辺りが心地よくだるい……。
やっばりオナニーは気持ちいいなぁ……。
「ふぅぅ……。……。……んっ? 」
射精して我に返ったぼくは気づく。
机の上に置いた例の小瓶が倒れていることに……。
倒れた瓶の蓋はいつのまにか開いていた。オナニーに集中していたので、小瓶が倒れた事に気づかなかったみたいだ。
とりあえずぼくは掌に出してしまった精子を拭き取ろうとティッシュに手を伸ばす。
「……うん? 」
なんだか左掌から突っつかれているようなくすぐったさが……。
左手を開いてみる。掌には白いネバネバしたぼくの精子がある。掌のまわりには何も見えない。
「えっ!? 」
けれど……、掌の精子はまるで何かに啄まれるようにみるみる消えていった。同時に掌にはツンツンと何かがあたっている感触がした。
やがて、左手の精子が消えていく部分に半透明の何かが浮かび上がる。
その何かがぼくの精液を舐めとっているみたいだ。もうすでに掌の精液はほとんどなくなっていた。
ゆっくりとそこにいる何かが姿を現す。それはまるで透明人間が現れる時みたいに、徐々にその輪郭を浮かび上がらせていく。
それは魚の様な形をしていた。さんまのように細長く尖ったフォルム。背骨のラインに沿ってトゲみたいなものが複数突き出ている。胸ビレは細長くて大きい。目の無い顔はのっぺりとしていて、尖った口だけがパクパクと動いていた。その魚は透明と半透明に明滅しながら、空中に浮かんでぼくの掌の精子を食べていた。
「ええっ!!? 」
ぼくはびっくりして飛び上がる。
謎の生き物も驚いたようにサッとぼくから離れた。
その生き物はまるで空中を泳ぐ魚みたいにくねらせて部屋の隅にスイスイと逃げていった。
しばらくの間、ぼくとその不思議な魚は睨み合っていた。睨み合ったと言ってもその魚には目が無かったので、頭がこちらを向いているだけだけれど……。
すると突然、半透明の魚がブルブルと震え出した。続いて白く発光したかと思うと、体がグンと一回り大きくなった。元は握り拳位だった大きさが、ぼくの肘から下と同じぐらいのサイズに膨らんでいく。細長かった胸ヒレはまるで羽のように厚みを増していく。トゲトゲだった背びれは連結してサメのような三角の背びれへと変わっていった。頭は口から上半分が西洋の兜のような形に丸みを帯びて膨らんでいく……。
そしてその魚はスーッと滑るように空中を泳いで僕のそばに来た。魚はまるでぼくのペットにでもなったみたいに、クルクルとぼくの周りを旋回し、チラチラと(形が変わっても、その魚に目はないけれど頭をこちらにむけて)視線を送ってくる。
ぼくは事態を飲み込めず、目を丸くして不思議な生き物を見守った。
「きゃぁぁ! 」
突然、離れたところから悲鳴が聞こえた。
「ゆめちゃん!? 」
ぼくは急いでズボンをあげると廊下に飛び出した。
この家は平屋だけれど、とにかく広い。幅の広い廊下を駆け抜け、3回ほど角を曲がってやっとバスルームにたどり着く。
そうして駆けつけたぼくは、現場の様子に目を丸くする。
そこにはバスルームの隣にあるトイレから飛び出してきたゆめちゃんがいた。ゆめちゃんはパジャマのズボンとパンツを膝まで下げた状態で腰を抜かしていた。ぼくはゆめちゃんの眩しいくらいに白くて綺麗な太ももと、意外に毛深い股間の黒いジャングルを目に焼き付けながら叫んだ。
「ゆ、ゆめちゃん! どうしたの!? 」
「トイレに何かいるの!! 」
青ざめた顔でゆめちゃんが叫んだ。
ぼくは恐る恐るトイレのドアを開けた。
そこには……、ぼくの部屋に突然現れたあの魚と同じ、半透明の生き物が空中をフラフラと泳いでいた。
トイレにいる魚もぼくの部屋にいたものと同じ形をしている。さんまみたいに細長く尖っていて、目は付いておらず、胸ヒレが大きい。そしてその魚の尖った口にはベットリと黒みがかった血がついていた。
「ゆめちゃん! 噛まれたの? 」
「ち、違うの。その……わたし今、生理で……、そ、その……、ち、血を、……舐められたみたい」
ゆめちゃんは真っ赤になって消え入りそうな声で言った。
「ええっ!? 」
びっくりしたぼくはゆめちゃんの股間を見る。夢ちゃんは慌ててパンツとパジャマを引っ張り上げた。
その時、トイレの周りを泳いでいた魚に変化が起きた。
そいつはブルブルと震えて白く光りだす。それから頭のあたりが急激に伸びて、まるでロケットみたいに先端が尖っていった。ヒレは尾翼のような三角形に変化し、体は円柱状に形を変えながら伸びていく。
「なにあれ!? 」
ゆめちゃんが叫ぶ。
ぼくはびっくりして言葉を失い、変化していく魚をただ眺めていた。
するといつのまにか、ぼくについてきていた最初の生き物が、トイレにいた方の魚にスーッと近づいていった。2匹は水族館のマグロみたいに仲良くトイレの上空を旋回してから、ゆめちゃんとぼくのそばにきてピタリと静止した。
「ど、どういうこと!? 」
ゆめちゃんとぼくは同時に声をあげて顔を見合わせた。
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