43  VS イメールの若君

 〈サラの部族 VS 従騎士団〉、4戦め。

 ついに真白月ましろつきの出番がきた。


日女ひめ、行きますよ」

 尓支にき奈久矢なぐやが立ち上がる。


 向こうの従騎士団じゅうきしだんがどよめく。女が試合に出てくるとは思わなかったのだろう。


 まず、審判に掛け合う。

日女ひめは実戦ははじめてです。ゆえに補佐役がつくことをお許し願いたい」


「イメール殿、いかがでしょう」

 主審がホランに聞いてきた。


「承りました。お相手、光栄に存じます」

 そう答えるしかなかろう。

(おひめさまのにお付き合いか)

 それはいい。


(おまえいい)

 ホランは、エルへスの言い方がひっかかっていた。

(そりゃ、わたしは神祇寮しんぎりょうの学生で武術は二の次にして来た。女子の相手ぐらいしかできないだろうとされても仕方がない)


 向かい合うと、月の日女ひめはホランの頭ひとつ分、小さい。

 

(やわらかく二本とらしてもらおう)


 いくら武術が不得意だと言っても、このきゃしゃな女子に負けはしない。

 でも、問題は日女ひめのうしろにひかえている背の高い女子二人。

 めちゃくちゃ、細マッチョだけど?

 日女ひめ危うし! ってなったら、絶対出てくるつもりだろ!


(エルヘス~~)

 ホランは、幼なじみを振り返った。

 エルヘスは、にかにか笑っている。

(昔から、こうだ。エルヘスのせいで困った事態になるんだ。くっそう)

 とにかく1回、目をつぶってホランは呼吸を整えた。

(実戦がはじめてって言っていたから。出方をみよう)


「よろしくお願いいたします」

「よろしくお願いいたします」


 挨拶を交わした真白月ましろつきとホランは、剣が交わるぐらいの距離に離れる。そして、下段の構えを取る。

 審判3人が二人を囲んでいて、主審の「はじめ!」の掛け声で試合開始だ。


「はじめ!」

 の掛け声が終わらないうちに、どすんとホランの腹に衝撃が走った。

 日女ひめの長柄が、ホランの腹に正面から突っ込まれていた。


「い、一本」

 主審が。

「い、今のフライング……」

 ホラン側から見ていた審判が。

「いや、ギリギリ?」

 真白月ましろつき側から見ていた審判が。


(うわ。ずっこい)

に習ってきた戦法が、それ)

 真白月ましろつきのうしろで、尓支にき奈久矢なぐやが見守る。

 仕切り直しになるだろうか。


「油断し過ぎだろ! ホランく~ん!」

 エルヘスの声が訓練場に響いた。

 辺りが、ぬるい失笑に包まれる。

 かっとホランは上気した。


「……日女ひめにおいては、金杭アルタンガダスの流儀を御存じないと思える」

 まさか、女子に先に一本とられるとは。

 フライング気味だったとしても、油断していたのはたしかだった。


 ホランは、ふっきれた。

(とる!)


(わぁ。きた!)

 ホランの、上から振り下ろされた棒剣を、真白月ましろつきは横にすっ飛んで避けた。

 そして、低い体勢からホランの足を狙う。

 ホランも、もう簡単には打ち込ませてくれない。


「けっこう、日女ひめ、素早い……」

、マー、できたんだ……」

 辺境チームのほうが驚いていたかもしれない。


「――タワシが。タワシが、日女ひめに仕込んだんダすからネひひん」

 いつの間にか、が辺境チームのうしろに、にじり寄っていた。

「え? 鞍楽クララが? おまえ、戦闘コンピューターだったよね?」

 ユスは、ぶるっと鳥肌が立った。

「――そんなふうに呼ばれたこともあっタかネひひん」

 が遠い目をした。(たぶん)


「実戦したことないって、マー、言ってたじゃん」

 トゥヤも、真白月ましろつきの動きに目を見張っている。


「アー。日女ひめ、それ、鬼ごっこの一環と思ってるカラひひん」

「わぁぁ。無自覚最強系か」

 ユスは、あるあるに納得した。


「タだし!」

 鞍楽クララが言い切る。

「そろそろ、限界ゲンカイナダ。〈外〉は日女ひめを弱らすかラ――」



(行ける!)

 そのとき、ホランは日女ひめの隙をみつけた。

 横殴りに棒剣で胴を取ろうとしたのと、自分のほうへ日女ひめが倒れ込んできたのが同時で。

 ホランは日女ひめを抱えたまま、うしろへもんどりうった。



 辺りが一拍ほど、静かになった。


日女ひめっ」

 布留音ふるねが叫んだので、皆、我に返った。


担架たんかじゃ! 担架たんかをもてっ!」

 帝が観覧席から立ち上がった。




撤収テッシュウぅぅひひん」

 たぶん、鞍楽クララは馬の真似がたのしくなっている。

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