39 求婚者参上
茶話会が終わった。
「えらく話が
ユスは、ふわぁっと大きく伸びをした。長椅子で座ったまま、仮眠していたという。
二人の
「帰るぞ」
「あれ?
続きの間には、布留音がいなかった。
「おまえが、あんまり待たせるから、
「そっか。おありがたい」
そのまま、宮中の長い廊下を抜けて
「――だから、お願いします。ぜひ」
「エルヘス殿。いかがされましたか?」
ユスが、
「ユス・トゥルフール大尉!」
二人は顔見知りらしい。
「この御仁! なかなかにできる人のようです! 馬も、すばらしいし!」
男子は興奮している。
「ぜひ、手合わせして欲しいとお願いしていたのです!」
「いえ。わたしは、たまたま、ここに来ただけで、剣術も興味はないと申し上げているのですが」
「その言い訳は無理があるだろ。そんな長剣をさげておいて」
ユスが、
その長剣は古式ゆかしい作りの
「
男子は
「ひひぃん」
「――ごめんね。
それで、事を収めたつもりだった。
が。
「わ、わたしが強くない、と」
「あれ? ダメ? ダメだった?」
「繊細かよ」
ユスが、かわいそうなものを見る目になった。
「どうするよ。落ち込んじゃったよ」
「えぇ。ごめんなすって。本当に、そう思ってるわけない。しつこい勧誘を断る、カワウソもほうべんだよ」
「本当ですか……?」
「
「……ほめてない」
ますます、神官騎士はいじけていく。
(こんな人だったっけ?)
「
だんだん棒読みになった。
「……そこの男子」
「手合わせの件ですが、受けましょう」
さっきまで、うっとおしがっていた男子へ、かしこまった。
「え? やる気になったの。神官騎士殿」
「えぇ。
「……かっこいいとこを見せたいわけだ」
そのやりとりを聞いていた男子は、改めて
「神官騎士……」
今度は、薄桃色のハーフマスクの
「月の
思い出したらしい。
「お披露目のときと、ずいぶん印象ちがうっ」
「あのときは、盛ったから!」
「しゃべった!」
「わ、たしが、しゃべるだけで、なぜ、みな驚くー」
「エルヘス殿、ちょっと落ち着いてくれ。
ユスが男子を、ぐいと引き寄せた。
「はっ、はい」
それから男子は、てきぱきと段取りしだした。
「えぇとですね。では、週末にでも
「あぁ? オレの仕事を増やすのか。こいつらのお守りで手一杯なの。わかるだろ。タショール君」
ユスはエルヘスの
「ユス先生のトモダチなんですか?」
「友だちは
エルヘスが、ぴっと敬礼してみせた。
「いや。それ、便宜上。オレは
「それでも、一応、上司ですよね」
「一応って。大臣家のぼんぼんは礼儀がなってない……」
「ぼんぼん?」
また、
エルヘスは、その視線に笑みで答える。
「エルヘス・タショールです。たしかに左大臣家の四男です」
そして、父親に言われたことを思い出した。
「あなたが月の
エルヘス・タショールは考えるより
目の前の女子が月の
「あ、会ったばっかりぃぃぃ~」
「この間、お披露目会で会ってますよ」
「いや、ごめんなすって。こっちは、まったく視野に入っていない」
ない、ない、と
「どういう展開だよ。落ち着け。タショール君」
ユスが止めに入る。
「わたしと月の
「政略結婚かよ」
「せいりゃくけっこん。あいといんぼうが渦巻く――」
「お前、システムってやつで、そんなんしか観てないだろ」
ユスは確信した。
「絶対にダメだ! わたしより強い者でなければ、
「エルヘス・タショールよ。
「溺愛親父かよ!」
ユスは頭が痛くなってきた。
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