36 トゥルフール神祇伯
トゥルフール家は
寺院本殿の後方に
どうやら、
馬と言っている以上、屋内に入れない。
「どう、どう。いいコでね」
その住まいは玄関だけでも庶民の家なら、すっぽりと入りそうだった。巨大な男神の像に早速、皆は出迎えられた。
「――
トゥルフール
その姿は後光が射している。明り取りの窓を背に向けて逆光のせいとはいえ、人徳者と見た。
「あなたは、お見かけしたことがあるな」
「〈
キィキィはひざを小さく曲げて、異国風の礼をした。
「おぉ、そうであった。後宮の方々の衣服を手掛けているのであったね」
「あなたは」
「名のるほどもない、つまらない者ですが」
「麦わらの
「了解です」
「ユス。では、この方々が〈
「たのしいかは、ともかくとして」
マホガニーの丸テーブルを、数脚のひじ掛椅子が取り巻いている。
ここでも、使役コンピューターが茶菓子の盆をたずさえてきた。
器用に茶碗をはさんで、丸テーブルに置いて行く。
茶菓子は焼き菓子だ。手のひらほどの丸い平べったい焼き菓子は、中央に木の実が飾ってある。ひびわれた焼き目が、いかにも香ばしそうだ。三つほどの平皿に、花弁のように並べられていた。
「ユス先生って、お寺の息子さんだったんですね」
「自分は養子だよ。
「見込みのありそうな子を引き取るのが生きがいでしてね。帝にも少しばかり影響を与えたかもしれぬねぇ」
トゥルフール
どうやら、従者でないのは、ばれているようだ。
そばに銀髪神官騎士が張り付いていれば、いたしかたない。
「ナラントゥヤさまは学舎寮に入寮されますのか」
「はい。そのように」
トゥヤは、はじめて飲む
「――それで、父上に、お願いが」
言うなら今だと、ユスは切り出した。
「トゥヤを、ナラントゥヤ公子を
「……学舎寮でなく?」
神祇寮に入った者は、絶対に僧になるわけではない。宗教学に興味を持った学生を受け入れてもいる。
在家出家という道もあり、すると家庭も持てるし他の職に就くことも可能だ。
「もしも、もしもですよ。
「なるほど」
「――父は。帝に
トゥヤは
「そう決まったわけじゃない。
ユスにも、
(オレの見えてない部分があるんかな)
「叔父は、そんなに頭が回る人ではないです」
「ふぉっ」
ユスは、飲みかけていた
(おいおい。何気に身内をオトしてくるな)
トゥルフール
「
「板ばさみ、ですか」
何と何のでしょうか、トゥヤは聞きたかった。
「とある方と、とある方の」
口に出すのがはばかられるといった意味合いにしては、
「――よし。ここで会ったのも御縁。この寺社から学舎に通われるとよい。おこがましいことですが、学舎寮よりは多少、融通も利きます」
「いいんですか!」
トゥヤは席から立ち上がらんばかりになった。
「ユス先生といられるなら! 何より……。心強い……」
声が最後、ふるえてしまった。
父、シドゥルグと叔父、ドルジの争いを、その目にし、はっきりと叔父に人質交換のようなことをされ、学舎に入れば、いよいよ独りなのだと決意していた。
決意していたのだけれども、今、手を差し伸べられて、自分は心細かったのだと、トゥヤは気づいた。
「
「そうと決まれば、早急に」
「帝のお許しを得なければなりません。このまま、行きましょう」
「今からですか」
「すぐさま。他の府の方々に、準備が無駄になったと嫌みを言われぬうちにですな」
「しかし、今日は」
ちらとトゥヤが
「行こう。トゥヤ、さま」
「いいの? あまり人目につきたくないでしょう?」
「わ、たしは、今日は、トゥヤの従者ダよ?」
「いきなり、カタコトになるのはやめて?」
「都に
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