21 オット登録
〈四匹の力持ち〉の4つのアーチ門のある小部屋に、ユスが来たのは、はじめてだ。
「うわ」
よろけて、ほの白い石の床に、かがみ込んだ。
「大丈夫?」
「なんか、はじめて船酔いになったときを思い出す……」
かがんだままのユスは、口元を抑えた。
「
「はい。ぐるぐる、体、振り回された感じではありますがね」
「お前たち、丈夫過ぎるだろ……」
ようやく、ユスは視点が定まってきたので起き上がった。
「うん。そう言えば、地下迷宮にはカプセルに入って、ぐるんぐるん廻るアトラクションがあったから。それ、転送に耐えるための訓練だったのかな」
「私は岩場で連続回転とか、鍛錬していますから」
「地下迷宮って、何なんなんだよ。もう」
げんなりした様子のユスが、小部屋のドーム状の天井を仰ぎ見ると、「それは、
「
「ありがとう。それには及ばないかな?」
「お帰りなサ。トモダチとゴ一緒スか」
「て、天井が、しゃべってる?」
ユスは、ぽかんとして上を見上げた。
「地下迷宮の入り口の番人だ」
「ハィィ~!」
「どぞ。下る間に、滅菌処理を行いマ」
「ついてきて」
まちがいなく、ここは彼女の縄張りだ。
「……なんか、デカいのいる。娘の朝帰りを玄関で待っている、お父さん」
ユスが、つぶやいた。
「送ってきた
身に覚えがあるようだ。
「ただいま!」
「――お帰りなサ」
そのうしろで、ユスは声も出せずに、その半人コンピューターを凝視していた。
(デカ。見た目、戦闘用コンピューターだが? こういう型があったのか)
「双方、生殖機能、問題ナシ」
「な、なななな」
ユスもだが、
「
「ちがい――」
否定しかけた
「オット候補です。オット候補!」
「……何を」
「このデカいコンピューター、オット以外なら
たしかに、
「デは、
「オット候補、その
「あっ。あと、もう一人。トゥヤってコがいる」
「おぉ、モテモテでんナ。おひめハン」
「
「ねぇ。わ、たしの留守中、なんか、そういうの観てた?」
「ためてたのを一気観したんドスぇ。よごザんシた」
真白月がいなくて寂しがっているかと思ったら、この機会に、『銀河任侠伝説』を、まとめて観たらしい。
地下迷宮の中は薄暗いものの、空気は清浄だった。中心へ歩んでいるのか。ひとつの扉の前で止まる。扉の真ん中が分かれ、両脇にしまわれた。
「 帰ったか。
声がドームに響く。城の
そこは、
ろくろで回したような、なめらかな
(古代の魔法ではなく、これは科学だ)
ユスは、ため息をつく。
「 オット候補、その
では、
そこは
「 フルネ 」
名を呼んだ。
「 ――ツブラ氏の一人は、この地下迷宮で、みまかった 」
「
「 代々の
(コンピューターだよな、これ)
ユスは黙って、そのやり取りを聞いている。そばで聞いていると普通に会話だ。
「おんじぃのお部屋へ案内してもいいですか?」
「 許す。
(まるで、感情があるかのようだ)
「こちラへ」
奥の通路へ、
ここは、どのくらい地下なのだろう。
想像もつかない。
自然石ではない、黒っぽい真っ平らな廊下と壁が続く。
(この辺りの山脈で産出される、
廊下の突き当りのドアが、自動で開いた。
「
その部屋は広くはない。書斎のようだった。コの字型の机の前に、背もたれが大きな椅子がある。壁は何も映さない窓と本で埋め尽くされていた。
机の上はノートとペンが無造作に置いてあった。ふいに持ち主が帰ってきそうな、そんな風情で。
「
「『遺伝子』、『免疫』、『ウイルス』、『解剖学』」
ユスが、本棚のタイトルを追っていく。
「
机の上のノートをぱらぱらめくって、とあるページで、ぴたりと止まった。
「心臓の動きと血液、補充療法、遺伝子挿入療法」
そこには、何かの治療経過が細かな字で書かれていた。
「ウ」
そのとき、
「何?」
「城でっ、ナニカあタっ」
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