34 お粥屋
当日の、
トランスフォーメーションを終えた
馬、と言い張れば、馬だ。
キィキィ(おそらく、今日のいちばんの早起きは彼女)は、そのさまを見て一拍、黙ったが、すぐに、マントのだぶついているところをつまんで補正しはじめた。
「はい。ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがたい」
にっこり笑った
トゥヤの衣は青系統のくず糸を織った、ざらりとした感触の夏の生地。あと、総じて寒色系で目に涼しい。
「今日、月の
麦わら帽子、なぜにハーフマスクの子は、
しかし、総出で出かけるのであるから、嘘はバレバレであるかと思える。館の使用人が、とんでもないオトボケでない限り。
そのうえ、馬上、主人であるはずの公子のうしろに、従者が乗っているのだから。
従者が馬に乗るにあたっては軽く、ひと悶着あった。
〈主人〉のトゥヤが馬に乗らないわけいかない。
でも、〈従者〉を神官騎士は歩かせたくない。
「わ、たし、歩くよ。キィキィさんも歩くんだし」
「ダメです」
「トゥヤのうしろに乗る」
「ダメです」(密着するから)
薄桃色のハーフマスクの従者の申し出を、ことごとく却下する。
「じゃ、じゃ、間に、お
キィキィの一計で、どうにか。
さて、
都に入る城門には兵士がいて、馬のマントを見ると何も言わず、道を開けてくれた。
「あぁ、そうか」
トゥヤが、わかったというふうに。
「その馬の被り物の眉間のところ。
見れば、そこに金文字で刺繍が。
キィキィは知っている人が見れば、この一行は、あやしいどころか重要人物。余計な手出しは無用ですよと、おまじないをかけたのだ。
「このもんどころが目に入らぬかってやつ?」
「目には何も入れないで?」
相変わらず、
「さぁ。朝市に参りましょうか。お寺の参道に、お店が出ているんですよ」
先頭を歩くキィキィは、先導する気まんまんだ。
家屋が途切れ、木々が多くなってきた。寺院がある場所は、都でも神域となっているのだろう。大木が多い。
一行の行く先に、寺院の正門が見えてきた。石畳の参道は、その奥まで続いている。参道沿いには子院も立ち並んでいる。
「参詣者目当てで、参道沿いには天幕張りの出店が出るの。出店料は大通りで店を持つより安いから若い店主が多くて、おもしろいのよ」
こんな朝早くでは、やっている店も少なそうだが。
「それが、朝食を外でとる習慣が
「――そこに、わたくしたちが来て、よかったんでしょうか」
「注視されているような」
そうだった。
だが、やはり、馬がデカすぎる。
「目立つの?」
馬上、
「いや、
トゥヤは、キィキィの手前、小声で名前をにごした。
馬型にトランスフォーメーションした
参道にいた人は、まばらだったが、それでも、この一行に気がつくと、ぎょっとして脇によけた。
「それでさ。キィキィさんの、おススメは
「おなか、空いてます?」
「それは、もう」
とある出店の前で、「ここです」とキィキィは止まった。
「お
「うわぁ!」
店から、ハスキーな叫び声がした。
その声に、皆が出店をのぞいた。
長身の女二人が藍色の前掛けをつけて、カウンターの中に立っていた。
「ニキ! ナグヤ!」
真っ先に声をあげたのは、
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