33 都見物へ行きたい
学舎寮に居を移すように、
「人質だろうが貴族の子息としての処遇だ。ユス先生のいる第
「あれ? ユス先生って従騎士なの?」
「うん。籍は置いていて、
「きようびんぼうなんだね」
「それ、ほめてないから」
「……さみしい。トゥヤがいないと」
「ぼくもだ。学舎に入ったら、なかなか会えないだろうしね。だからさ」
トゥヤが、にこ、と笑う。
「今のうちに都見物に行こうよ。二人で」
がっ。
「とんでもないクソ坊主ダ、コイツめ」
「二人っきりでなんて、行かせませんよ」
「じゃ、じゃ。みんなで行こう。やっほう!
こういうときの調整は、やはり
「何か、わからないけど。やっほう!」
トゥヤが合わせてくれる。
「……それなら、まぁ」
「タワシゃ、留守番は、もうヤダっ」
「あ……。そうだよね」
ここのところ、ずっと
館の使用人たちの間で、誰もいないはずの
「じゃ、
「何に御入用で?」
「
『
アン・ケセ・ナーメン・イヴ・シュト・レン・バー
♡キィキィと呼んでください 』
「名前、
「とにかく。発注をかけましょう。王族特権で大至急」
ほどなく。特急の飛脚便が、〈
代表のアン(以下省略)、通称キィキィは、早速、封書を開ける。
先頃、お披露目会の礼服を納品した、辺境の
(どれどれ。今度のご注文はと)
「……このサイズで、馬のマントですか」
お針子隊隊長は、銀縁眼鏡の縁を指で、くいとあげた。
「なんだか、秘密のニオイがしますねぇ」
それから、
「行くとしたら、平日の午前中だよね」
「平日なら、帝は
「服は、できたの?」
「今日、納品です」
〈
『それと、神官騎士と公子と
もちろん、馬のマントもだ。
「馬のマントについては、仰せのサイズより少しばかり余裕をもって仕上げました。最後の仕上げは、お馬さまに着せかけてサイズ確認をしてから行いたいと存じます」
彼女は、
いつものことなのだろう。人払いがされている。
「……大体、合ってればいいんだ」
「それは職人としてのプライドが許しません」
ぴしゃりと、この
「お許し願えないのなら、これは持ち帰らせていただきます」
キィキィは馬のマントをしまいはじめる。
「待って!」
柱の陰で聞いていた
「お願いします。それがないと、トモダチがお出かけできないんです」
「あら。
この間の採寸のときは、ベールをつけて顔を隠していた。
アンは、その少女の面差しに、ちょっとほころぶ。逆に、おつきの神官騎士の眉間のしわが深くなった。
「――この商売は信用がいちばんなんです。顧客情報は決して他言いたしません」
神官騎士が言いたいであろうことを、アンは先回りした。
(
「あぁ。とっても、きれいだって、みんなにほめてもらいました。着心地もとてもよかったです」
「今回の衣装も、きっと、お気に召しますよ。おしのびでお出かけになる、おひめさまをイメージして作りました」
「ろうまのきゅうじつ、ですね」
「
「んー? キィキィさんて、いくつなんですか?」
「ふふ。いくつに見えますか」
「わ、たしよりは、おねえさんだから、じゅうはっさいくらいかな」
「まぁ」
アンは満面の笑顔になって、ぐにぐにと身もだえした。
「じゃあ。この馬のマントは置いて行きます」
「やった!」
「そのかわり。おしのびには同行いたします」
「え!」
「そのときに馬のマントの直しをさせてください。今回は仮縫いなしの特急便でしたので、後日、完全版をお持ちします」
「わぁ。ごていねいに面目ない」
ここまで言われたら、おしのび当日の同行を許すしかない。
※真白月たちの被服費は
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