30 帝は乾親ならんとす
週末、
顔を合わせるや否や、帝は切り出した。
「
ぽかんとしている
「
なさそうだ。
「お断りします」
「ふ。われは
帝が笑っているところを見ると、こういう事態を
「わ、たしは、いずれ、自分の国に帰る身。都へあがるわけには参りません。なんなら、ここに来る気もありませんでした」
「だが、公子のことが心配であろ?
話が物騒になってきた。
「トゥヤを、どうするつもりなんですか?」
心配は、その一点だ。
「
「えぇ……? そこまで決める?」
「
「お断りします」
また、
「わ、たしが養子になったら、トゥヤの安全は約束してくれる?」
「あぁ」
「2カ月に1回は、実家に帰らせていただきますよ?」
「多くないか」
「半年に3回」
「同じじゃ」
「
「許そう」
「約束ですよ? もし約束をやぶったら――」
「やぶったら?」
「牛乳千本飲ます」
3人が岸辺の館へ戻ったところで、ユスが待っていた。
「ユス先生、大変なことになった」
トゥヤが駆け寄る。
「あぁ、オレは
ユスは頭を抱えているようだった。
「異教の
「ユス先生?
一応、〈
「びみょうに長いんだよ」
「じゃ、まー、で、もういい。で、質問です」
「帝には、お子さまが、いないんですか?」
館の軒に差し込む光は、夕暮れに近くなっていた。
そのまま、渡り廊下で4人は話し込んだ。
「いない。後宮においては、大臣家二家から
ユスは、ため息交じりだった。
もともと、後宮は帝の祖父が作った。当初の目的は従属国にした国の王族の子女を住まわす屋敷だった。それが、前帝の時代に女子限定となり、〈お世継ぎ部門〉を担当することとなった。前帝は、おおいに後宮を楽しんだようだが、現帝はちがうようだ。
「それで今後のことだが。内輪で
「人質じゃないんだ?」
トゥヤが、意外という顔をした。
「はっきり、叔父上と取引していましたよね。叔父上が父君と対立せざるを得ない状況に陥ったのも、帝が、叔父上の母上をかどわかして脅したのではないでしょうか?」
「なぜ、そんなことを?」
「私なら、そうするからです」
きっぱり。
「わ、たしを養子にして何がしたいのだろうね。帝は」
「わからないの? 所有欲だよ」
(おいおいおい)と、ユスは混ぜっ返すことにする。
「お人形ごっこがしたいんだと思うよ。その、お針子を連れてきてるんだ。今から採寸だ」
宮廷おかかえのお針子の一団が来ていた。
お披露目会の礼装を作るのだという。
「
「すっとーんとした服、作っときゃいいじゃーん……」
自分で言って、
「服には
お針子隊の隊長らしい年かさの女が、くいと銀縁の眼鏡をあげて言った。
「宮中女性の
「いや、針に集中して」
お針子に取り囲まれた
その横で、「動きやすく、
「あと、靴と小物も忘れるな」と言い添えた。
「なんで、そんなに詳しい」
ユスが皆の気持ちを代弁した。
「肩幅とか、お胸回りとか、お腰回りなんかも測らせていただきますわよー」
「なんでっ」
「えー。
「おまかせください」
銀縁メガネのお針子隊長は、どんと請け負った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます