29 御前会議
本日の御前会議は緊急ではない。定例のすりあわせと言える。
大臣家の他には、
シャタル帝は、ゆらりと、
起立して待っていた貴族たちは、帝が
いくつか、下からあがってきた諸問題に各々意見を述べて、会議も後半に入る。
そして、これからが本題なのだろう。
タショールが
「このたび、
タショールも同じく両手を胸元で交差し、意見を述べる。
「
両名が、
タショールの、やや低めの声がさらに低くなる。
「風土病にて療養中とうかがいましたが、実は
タショール独自の情報網が、辺境にも存在していそうだ。
「時に、
およそ、タショール本人の意見だと思われる。
「伯母上に関しては、もともと、そういう方だからな」
そう、帝に言われてしまうと、誰も打開策があるわけでなく。
「
「それは、あるやもな。
「
「それに対しては使者団を遣わそう」
「恐れながら手ぬるいのでは」
タショールは強気に出る。
「
「ついては、ダブソスへ視察を行おう。では、タショール、お前が行くか?」
「え」
タショールは、やや動揺した。ダブソスまでは遠い。山脈を越える羽目になる。
「いや。その目で確かめずにはいられないのかと」
「は……」
そこまでは考えていなかった。
都以外の地は、いまだ開発途上で医療技術も文化水準も低い。ダブソスへ視察とならば半年ほどの長旅を覚悟せねばならないだろう。
老年に差し掛かった身には堪えそうだ。
「おまえに都を留守にされては、国の守りがおろそかになる。できれば、他の者がよい。イメール」
「はっ」
今度はイメールが、ぎょっとした。イメールとて、都以外の土地へ行きたくない理由はいろいろある。
「おまえにも都を離れられては、国政が立ち行かぬ」
「はっ、はい」
内心、ほっとする。
「ダブソスへの視察団は適任者を選定し、準備でき次第ということでよいか?」
「御意に」
「御意に」
「――そして、次の議題は後宮の事であります」
「世継ぎのことであるか」
かぶせ気味の帝の言葉に、ぴんと空気が張りつめた。
「陛下、どうか後宮にお運びくださいますよう」
イメールが遠慮がちではあるが、内心、食いつかんばかりである。
「まあまあ。陛下も、お考えなのじゃ」
タショールが、なだめにかかる。
「この5年で、試せるものは試してみた――」
帝は、なぜかの、ほほえみを浮かべた。
「このままでは
イメールが、さらに詰め寄る。
「それでじゃ」
帝は思いついたという風に切り出した。実際、思いついたのは昨日だ。
「われは〈
「
イメールもタショールも、同時に目をむいた。
たとえば、子供のない家庭が子を養子とする。
あるいは一人息子や一人娘の家庭が、男女双全を望んで、別の家から子女を迎える。不完全な人倫関係の一種の補充をせんとすることだ。
養子をいただいた家庭と、出した家庭の関係が良好ならば,交情を深め
どちらにしても、幼児の死亡率の異常に高い、この時代に父母が気持ちの安寧を得るための手段であった。
また、子供のためには父母以外の後見人を指定し,もって父母の不慮の死に際しても
しかし、それを帝がなさば。
「その月の
イメールとタショールのあわてようは。
「いや。
その言葉に、イメールとタショールは、いったんは胸をなでおろす。
「子々孫々の
御前会議は、帝の言葉で締めくくられた。
〈参考〉『中国における乾親(干親)習俗』
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