31 お披露目
湖の中央にある
今日の、月の
銀細工のかんざしで頭上に留めた薄布のベールが、風にそよぐ。
彼女が本殿の船着き場にひるがえるように降り立つのを、ユスが待っていた。
「
からかい交じりのユスの口調に、
生地は光の角度で、かすかに、その
今朝早く、お針子隊の銀縁メガネの女隊長が館に来て、髪から化粧から、ととのえてくれた。
「ねぇ、
「いっそのこと、
その、ゆるくうねる銀の髪は首の後ろでくくりたらし。
絶妙な光沢の
「ご勘弁を願います」
そう言う
「
トゥヤが、いちばん最後に船から降りてきた。
その
「
ユスは一応、確認を取る。
「ん。〈お休みモード〉です」
岸辺の館で、
いらぬ好奇心でもって、その戸を開けるなら――。
そして、タショールとイメール。
(
先日の帝の話より、両人の頭の中は、お披露目される
シャタルが帝になってからというもの、この二家は気が休まらない。
仕事はできるが、世継ぎ問題に無頓着。その後宮に見向きもしない帝に、養子にすると言わしめる
傾国の美姫か。いや、待て、それなら、なぜ
まことしやかにささやかれる、あの噂は本当なのだろうか? 帝の御興味は、ユス・トゥルフールのような青年にしかないと。
堂々巡りする、いろいろだ。
やっと、小姓が帝の御成りを広間の面々に伝えた。
皆、臣下の礼で迎える。
帝は、こころなし、ゆっくりと歩を進めている。
(演出力、すごいなー)
広間の上座には
「
トゥヤは、大臣家の席近くにいざなわれた。
現帝の兄の子であるトゥヤの立場は、名目上は大臣家に匹敵する。
品定めするような目線が上品にではあるが、トゥヤに注がれた。タショールの子息などは、実に遠慮なくトゥヤを見て来た。
軽く一礼し、トゥヤは伏し目がちに受け流す。そうすると、とても殊勝に見えることを知っている。
イメール家の子息は、ちらりと見ただけで、あとは無関心という風情だった。
「本日は、月の
帝が答える。
「これなる日女は、月の
今まで、帝が
シャタルという帝は、前例がないことを好む性質ではある。
世継ぎのないことも、前例がない。
このままでは、次の帝は、少しでも
「――そして、思いついた。この
場が静まり返った。
「恐れながら」
「わたしと約束のある方です。
「そうであるか。母腹は違えど我が兄の子、不足はない」
ベールの陰で
――そんなことまでは約束してなぁぁぁい!
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