14  反省室

 『 反省室に来い 』と、呼び出されたと、黒髪の少女はおののいていた。


  弦月ハガスサラの城の中を巡回する兵士の目をかいくぐって、4人は急いだ。 

 ベール(シーツ)をかぶった真白月ましろつきのあとを、布留音ふるね、ユスとトゥヤはついていった。彼女の歩みに迷いはない。耳元の〈かぼちゃの馬車〉から誘導信号が出ている。


 ユスは、行き先がわかる気がした。

 はたして、真白月ましろつきは地下の礼拝堂へ下り、ミイラが安置してある場所にたどりつき、あの隠し扉の部屋の前に来た。


「ここからは、ご遠慮願いたい」

 布留音ふるねが、トゥヤとユスを制した。


「なぜですか。城の主は私の父だ。つまり、わたしもだ」

 言い切るトゥヤを布留音ふるねは、ねめつけた。

日女ひめの選んだお方でなかったら、たった斬るところです」


「選んでない」真白月ましろつきが、真顔で振り向いたから、「えっ」トゥヤは、すがる目をした。


「ここに、ひかえていましょう。古代の神官たちの安らかな眠りを妨げてもなんですし」

 ユスが妥協案を出す。


「ミイラ部屋が反省室とは、ろく……の趣味らしい」

 真白月ましろつきの意識下に、指示は点滅していた。

『 メガミノ ヒダリテニ ミギテヲ ノセヨ 』


 そのとおりに、真白月ましろつきは女神の左手に自分の右手をのせた。

 かすかな空気の振動があり、ホログラム三次元画像が像から浮かびあがる。

 トゥヤの時とちがうのは、ホログラム三次元画像が音声をともなったことだ。


「 ヒメ 」

 これが、六天舞耶ロクテンマイヤの声だった。いくぶん、くぐもっているが。

「 ソコにいるのは 神官騎士か 」


 布留音ふるねはひざまずいた。


(向こう側からいるのか)

 ユスは正体のわからぬ視線の主に、ぞくりと背筋が寒くなる。


「ごめん、なすって」

 真白月ましろつきは、ホログラム三次元画像に向かって九十度に折れてあやまった。


「 ――イヤ、思った以上に よくできました 」

 六点舞耶ロクテンマイヤは、真白月ましろつきの進捗度テストに、花丸をつけるときの決まり文句を言った。


「は?」


「 ソロソロ話さねばと思っていた なぜ 我らが地下迷宮に暮らしていたのか ヒメが何者なのか じゃ そこに 皆 体育座りで座ってー 」


 体育座りがわからない、トゥヤとユスに、真白月ましろつきが見本を見せる。


 六天舞耶ロクテンマイヤが思い出モードに入った。


「 ――ワレは この地の女神とも呼ばれて 久しい が 」


 空間映像が浮かんだ。『 これはイメージ画像です 』という注釈文字も浮かんだ。


「 その実態は 方舟ハコブネの メインコンピューターです 」


 暗い闇の中を進む、船団が映し出されている。

 

メインコンピューター元締めだとは、思ってた」

 真白月ましろつきは、うなずいた。


「 方舟ハコブネは 産業廃棄物の運搬船でした この地に廃棄中に地殻変動に巻き込まれ 方舟ハコブネは土に埋まり 幾星霜イクセイソウのうちに その上に 土地人トチビトが神殿や城を建てて今に至る 」


「私は、その方舟ハコブネに乗っていたの?」

 真白月ましろつきがたまらず、口を挟んだ。


「 まぁ 聞きなさい 」


 この手の話は長いと決まってる。


「 方舟のクルー船員は救難信号を出しましたが 母船たる御船ミフネから返事はありませんでした 何かの作用で通信が遮断したものか 母船にも何か問題が起きたか だから この地で待つしかありませんでした 果敢にも〈外〉に出るクルー船員もおりました ただ 外に出るとクルー船員は短命になりました 」


 わかりましたか、というように、六天舞耶ロクテンマイやは、いったん話を区切った。


「 そして この地に順応していくための一つの方法が 螺良つぶら氏のような土地人トチビトの、〈でおきしりぼ核酸〉を借りることでした その返礼に この大陸の文明の進化に協力したため 神サマと呼ばれました 」


「わ、たしは」

 真白月ましろつきが、また、たまらず口をはさんだ。


「 その一方で 」

 六天舞耶ロクテンマイヤスルー無視


「 いつか母船にサルベージ引き揚げされることを願って 〈オリジナル〉 つまり純血種の保存を試みる者もいました それがクララ博士とハイジ博士でした 彼らは自分たちの〈でおきしりぼ核酸〉でヒメを生み出しました その〈オリジナル〉を引き継いでいるのが真白月ましろつき あなたです 」


「――天人(ソラビト)の方舟ハコブネって、おとぎ話じゃなかったんだね」

 トゥヤが小声でユスにつぶやいた。


「 そこに 土地人トチビトがいますね 」

 六点舞耶ロクテンマイヤは見逃さなかった。

「 もしか クルー船員の いや イマは言及しなくてもよいか…… 」


 六天舞耶ロクテンマイヤが黙り込んだので、「よい人たちです。えぇと、トモダチです」と、真白月ましろつきフォロー支援した。


「うるわしの女神」

 すかさず、トゥヤが、ホノグラム三次元画像に向かって優雅に礼をした。

「私は鋼鉄鍋ボルドゴゥ公の長子、ナラントゥヤと申します。この者は私の指南役、ユス・トゥルフールです。」


 彼は、〈こども大使〉だった。誰に対しても礼儀正しく、神サマにもおくさない。


「 ――ナラントゥヤか よいこじゃ 覚えておきましょう さて 」

 ホログラム三次元画像が、ちらついた。

「 真白月ましろつき あなたは、地下迷宮でサルベージ引き揚げを待ちますか それとも 短命になっても この地で生きますか 」


「……えぇと。それ、今、すぐ、決めないとダメですか?」

 

 外で生きるとまでは考えていなかった。

 けれど、地下迷宮で一生を暮らすとも決心できなかった。

 

「 時間をあげましょう ただ 外での暮らしが長くなるほど 地下迷宮へ戻れなくなりますよ 」

 六天舞耶ロクテンマイヤは女神の慈悲をもって応えた。

 

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